最近話題になっていますが、欧米や米国で、原因不明の肝炎の症例の報告が増加しています。日本でもすでに10例以上の報告がありますが、まだ原因や病態gA解明されていません。現時点で分かっていることをまとめました。
世界での症例数は?
現時点でアメリカでは109人、イギリスでは163人、そして日本では12人の該当症例の報告があり、アメリカでは109人のうち5人が死亡(死亡率4.6%)、イギリスでは死亡者はいませんが、163人中11人が肝移植をしています。幸いなことに、日本の症例はいずれも軽症です。
肝炎の原因はアデノウイルス?
イギリスの統計では75%が5歳以下、72%の患者でアデノウイルスが検出されています。まだよく分かっていないことが多すぎますが、新型コロナウイルスの合併感染あるいは、コロナの感染歴がある子どもが有意に多いということも分かってきていて、恐らく何らかの免疫学的機序の異常が起こっているのだと考えられているようです。
肝炎が起こってしまえば、黄疸などの症状は一般的な肝炎と同じですが、先行して胃腸炎症状が出ている子が多いのも特徴で、それがアデノウイルス感染の症状なのではないかと思います。
そもそも肝炎ってなに?
肝炎は感染性の肝炎と、非感染性の肝炎がありますが、いずれにせよ、なんらかの原因で肝臓に炎症を起こした状態を「肝炎」と呼びます。感染性の肝炎はA型からE型まで知られていますが、一般診療で一番よく見られるのがA型肝炎。肉の生食などで感染します。A型肝炎の発症頻度ですが、全年齢で1年間に約1000例程度報告されていますが、小児の頻度は非常に少なく、だいたい毎年5歳以下では10人に届きません。一番多いとされるA型肝炎でその程度なので、他の肝炎の小児例はさらに稀です。
B型肝炎はここ数年で定期接種対象となったために、ご存じの方も多いと思います。さらに、サイトメガロウイルスやEBウイルスなども肝炎を引き起こすことがあります。
「肝機能障害」は比較的よく診る病態でもある
子どもの血液検査をして、肝機能に異常を認めることって、実は結構あります。そのほとんどが、なんらかのウイルス感染による「一過性の肝機能障害」という診断名が付きます。この一過性の肝機能障害ですが、突発性発疹症のウイルスで起こることも多いし、一般的な風邪ウイルスでも起こることがありますが、原因ウイルスを特定できることは少ないです。ただ、「一過性」かどうかは、治っていってからしか分からないので、はじめの段階で、肝炎ウイルスなどはスクリーニングにかけますが、実際にひっかかることってかなり稀です。結果的に一過性だった肝機能障害は、小児科をしていれば、年間数例は必ず見ますが本物を見たことがある人は少ないでしょう。
また、乳児期は無症候性に軽微な肝機能障害が出ることがあります。しばらくフォローアップしていると肝機能は正常値に戻ります。これも実際のところはよく分かっていません。
原因不明肝炎のこれからの展望
現時点で、今すぐ爆発的な流行になる兆候はありませんが、明らかに例年と比べて肝炎の頻度は上がっていると言えるでしょう。ただ、もともとの頻度が少ないため、まだそれほど各地で見るような確率は低いし、それほど心配もいらない段階と思っています。
胃腸炎症状が先行するということですが、春になって胃腸炎も流行っています。そのうえでこのアデノウイルス肝炎(仮)を見逃さないようにするには、胃腸炎症状の後、白目の部分が黄色くなっていたり、尿の色が明らかに濃くなったりするような、黄疸の症状に気を付けておくしか、今のところはなさそうです。といっても、黄疸が出ている時点で、肝臓の炎症がある程度ひどくなっているのは当たり前の話で、胃腸炎のあと全例に血液検査するわけにもいかないので、早期発見・早期治療というのも難しそうですね。小児科医は、軽微な黄疸症状も見逃さないように、子どもの顔色には注意しておいたほうがよさそうです。