心臓震盪について

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症例

10歳男子。生来健康。

野球クラブの練習中に、脇見をしていたところ、ピッチャが暴投した流れ弾が前胸部を直撃した。直後、胸が痛いと訴えた後、ぐったりした。

受診時:顔色不良、脈拍触知せず。
即、救急要請し、病着時にはVF(心室細動)の所見。

さて、この病気は何でしょうか?という問題。

病態は?

野球中に胸に球が直撃したあとのVF(心室細動)≒心停止。

病院で電気的除細動(いわゆる電気ショック)で正常波形に戻り、その後は後遺症なく無事何事もなく回復しました。本人は胸が痛かったことしか覚えていないようでした。

答えはズバリ、心臓震盪(しんぞうしんとう)です。

心臓震盪とは

心臓震盪とは、心臓付近に外的な衝撃が加わった際に、心臓が正常に動かなくなってしまう病態です。スポーツ中の子どもが突然死してしまう原因として知られるようになってきました。

元来スポーツ中の心停止は、肥大型心筋症など、もともとの心疾患を持っている人が心臓に負担がかかることによって不整脈などが引き起こされた結果として起こる、と言われていましたが、実はそれだけでなく、この心臓振盪も含まれていることが指摘されるようになりました。

心臓震盪は、心臓のある部分を中心に、しかも決まったタイミングで、適切な強さの刺激が加わったときに起こることが分かっています。決まったタイミングとは、心臓が収縮し終わるある一点のタイミングで、適切な刺激の強さとは、胸骨が折れるくらい強力な刺激では起こらず、逆にポンッと当たったくらいでも起こらないということです。この条件が揃ったときに、心臓への刺激が誤った信号となり、致死的な不整脈となります。

R on Tについて

心電図 - Wikipedia
wikipediaより

心電図波形は一般的に上記のような波の形になります。R波のところでちょうど心筋細胞が脱分極(簡単に言えば刺激を受けて活動した状態)を起こし、S,T波の間にまた元に戻り、P波からまたQ波を経てR波の部分で脱分極する、ということを繰り返しています。

R波で脱分極を起こすと、しばらくは元の状態に戻るまでに時間がかかるため、刺激しても反応しない時間帯が存在します。そしてT波のてっぺんを超えたあたりで、再び刺激に反応するように回復してきます。この、刺激に反応できるかできないかの部分、すなわちT波の部分の約10-20msec前(msecは1秒の1000分の1)に一致して、前胸部の一部に接している心臓の、心室の一部がかるく変形するような強さの刺激が加わった場合に、予期せぬ心筋細胞の脱分極(R on Tと呼ばれる現象)が起き、致死的な不整脈が起こりやすくなります。

心臓震盪の症例

症例報告では空手の打撃を受けたとか、サッカーボールを胸でトラップしたとか、バスケの小競り合いで相手の肘が胸に当たったとか、本症例のように野球やバスケットボールなどのボールが当たったなどです。プロが投げるような140-150km/時の速さの球では起こらず、ちょうど小中学生くらいが投げる60-80km/時くらいの速さのボールが、適切な強さであるとも言われています。

心臓震盪と診断が付けば、なるべく早くにAEDで蘇生処置をすることで、社会復帰の可能性が高まりますが、救急搬送までに時間がかかったり、心停止の時間が長くなればなるほど、後遺症の危険も高まり、命の危険も高まります。

そういう意味でも、AEDはどこのグラウンドにも設置されるべきですし、仮にない場合も、最寄りのAEDがどこにあるのか、AEDマップで確認しておくことも重要です。
http://財団全国AEDマップwww.qqzaidanmap.jp

www.qqzaidanmap.jp

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