ご存じの方も多いかとは思いますが、日本では現在年間1万人以上の若年齢の女性が子宮頸がんと診断され、そのうちの1/4以上である2800人の死亡者が出ています。さらに、統計的に死亡者には含まれませんが、相当数の子宮ないし子宮頸部ががんの治療のため切除されており、その子宮に宿るはずだった子供の命も間接的に奪っていると言えるかもしれません。
最近、シルガードという新しい子宮頸がんワクチンが開発され、2021年2月に日本でも販売承認されました。そのことについての質問を外来で何度か受けたので記事にしようと思います。
現在国内承認されている子宮頸がんワクチンについて
現在、小学校6年生から高校一年生までの女児が無料で接種できる子宮頸がんワクチンは、サーバリックス(2価)とガーダシル(4価)の二種類です。
子宮頸がんワクチンは、ワクチン史上もっとも開発に成功しているとも言われるワクチンで、がんを予防するという素晴らしい効果が謳われています。しかし、もう8年以上にわたって、「積極的接種を控える」という微妙な対応で宙ぶらりんのまま、日本では先進国唯一といっていいくらい、接種が進んでいないです。しかし、ここ最近、8年ぶりに接種推奨を再開するという動きが出てきています。
子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルス
子宮頸がんや陰部の尖圭コンジローマ(いぼみたいなものができる感染症)を引き起こす原因が、ヒトパピローマウイルス(HPV)だということが分かってきて、しかもその種類(型)が多数あることも分かってきました。
現在日本で承認されているワクチンは、いずれも2種類あるいは4種類の型のHPVにしか効果がなく、それでも子宮頸がんの60%は減らせるという、衝撃の効果があるものでした。
さらに、現在世界の主流は、9種類のHPVに有効なワクチンにうつっているのですが、それがガーダシル9あるいはシルガード(以降、シルガードで統一します)と呼ばれるワクチンです。シルガードであれば、子宮頸がんの90%を予防できることが世界各国の研究で分かっており、世界中でシルガードの接種率が上がれば、あと40年ほどの間に先進国では子宮頸がんが排除できるだろうという試算も出ています。(ここでいう排除とは、10万人あたりの発症率が4人以下になるということ)
それほど効果があり、また世界中で実績のあるシルガードですが、まだ日本では定期接種として承認されておらず、先にも書いたとおり、2価あるいは4価のワクチンしか公費で打てないのが現状。しかも、2価も4価ですらも、積極的接種差し控えの件がありまだそれほど接種が進んでいません。
シルガードについて
子宮頸がんワクチンは、HPV(ヒトパピローマウイルス)に対するワクチンですが、シルガードは、HPVのうち、6、11、16、18、31、33、45、52、58の9つの型に有効とされています。(9価ワクチンの「価」というのは、「有効なウイルスの型」という意味です)
そして、後半の赤字の型は子宮頸がんや肛門周囲のがん、または咽頭のがんの原因にもなっているウイルスの型です。なので、従来のサーバリックス(2価16、18のみ)またはガーダシル(4価6、11、16、18)よりも、より効果が高いことが分かります。
国際的に行われた共同試験の結果を示します。
16-26歳の女性計14200人あまり、半数がシルガード接種、残り半数が4価のガーダシル接種し、接種後6年間調査された結果がこの表になります。

シルガードの方が、4価のワクチンと比較して97.4%のがん予防効果があったというオドロキの結果でした。
子宮頸部の細胞診異常も92.9%減少させ、前がん病変も予防されていることが分かります。
一般的にはHPVワクチンは、性交渉の機会をもつ前に打っておくのが鉄則と言われており、実際の接種対症年齢もやや低めに設定されていますが、いつまで効果が続くのかはまだよく分かっていません。この研究結果から、少なくとも6年はしっかり効果が期待できるし、その後も急激に下がるわけではないので、少なくとも10年程度は効果があるだろうと言われています。
さらに、すでに性交渉のある女性に対しても、シルガードががんを防ぐ効果があることも分かっており、やや年齢が上がっても接種すべきという結果も出ています。
このように書くと、じゃあシルガード一択やん!とお思いだと思いますが、ズバリその通りなのですが、残念ながら現状は日本ではまだ公費負担を受けられるのが2価あるいは4価のワクチンだけで、シルガードはまだ公費負担対象となる目途がまったく経っていません。そうこうしているうちに、我が子にそんな時期がおとずれてしまって、接種時期を逃すことはしてほしくないので、子どもさんの状況を把握し、接種推奨の時期が来たらとりあえず2価でも4価でもいいので接種しましょう、とお話しています。
なにはともあれ、従来のワクチンは、もっとも子宮頸がんを引き起こす頻度の高い2つの種類のウイルス型(16、18)に対応しているのだから、9価の登場を待って打たないというのはなしです。
逆に、現在もう高校2年生以上で、定期接種を逃してしまった、という人は、同じようにお金を払って打つのであれば、多少高くてもシルガードを打つべきだと思います。ただし、この8年間の接種控えの期間に打ち漏らした人に関しては、政府から救済措置で無料となることがあり、対応は自治体によって違うので、事前に確認してみるのが確実です。