今年はコロナ禍のため、小児の肥満が増加しているのと、もともと肥満があった子に関しても悪化している事例が多く見られます。コロナ禍において、肥満とどのようにつきあっていくか、考えました。
肥満は病気
お子さんに美味しいものをたらふく食べさせてやりたい、という欲求は、母親という生物にとってごく自然なものであると考えられます。「美味しい!おかわり!」と言ってもらえたらすごくうれしいし、食べないより食べるほうがいいやん!と考えている人も多いと思います。もちろんそれは間違いではありませんが、度を超すとお子さんの将来に大きく悪影響が出てしまうかもしれないので、注意です。肥満は病気です。
肥満の診断
肥満の評価方法はいろいろありますが、一番確実なのは、「肥満度」を算出することです。
肥満度は、以下の計算式で算出されます。(幼児以上)
肥満度=(実測体重-標準体重) / 標準体重×100 (%)
標準体重は学会から発表されている値を用います。

ちょっと辛気臭いですが、この表から標準体重を探して、式に当てはめることで算出できます。乳児ではこの式はあてはめられません。
幼児では肥満度の値が15%以上で太りぎみ、20%以上でやや太りすぎ、30%以上で太りすぎとされています。学童では20%以上を軽度肥満、30%以上を中等度肥満、50%以上を高度肥満の基準としています。
この表では細かい身長までは記されていないので、学会からフリーで見ることができる肥満度曲線を利用して算出にする方法もありますしてもいいです。現時点での体重と身長をプロットするだけです。
男児(学童期)の肥満度曲線 男児(幼児期)の肥満度曲線
女児(学童期)の肥満度曲線 女児(幼児期)の肥満度曲線
また、簡易的には乳幼児ではカウプ(Kaup)指数というものが用いられることもあります。このKaup指数が引っかかってくると、肥満度の計算を行うという順番です。
Kaup指数=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
(例:体重12kg、身長90cmの場合、12÷0.9÷0.9=14.8)
正常値は以下の通り。
乳児(3ヵ月以後):16~18
1歳まで: 15.5~17.5
1歳以降~満2歳: 15~17
3~5歳: 14.5~16.5
お気づきの方もいるかもしれませんが、Kaup指数はいわゆるBMIと同義です。
学童期にはKaup指数ではなく、ローレル指数という数値が用いられます。
ローレル指数=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)÷身長(m)×10
115-145が正常値で、100以下が痩せすぎ、160以上が太りすぎです。
*ただし、個人の第二次性徴などの発現具合によっても多少正常値は変動することがあります。
またこれ以上の年齢になると、大人と同じようにBMIが主に用いられるようになります。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) 標準:22
Kaup指数と同じ式ですよね?子供の場合は、体のバランスがまだ成熟していないので、正常値が変わります。
肥満が将来及ぼす影響
肥満の種類と原因
肥満には一次性(単純性)肥満と二次性肥満があり、ほとんどが前者です。単純性肥満では摂取カロリーが消費カロリーを上回ることで起こり、食べ過ぎなどで摂取カロリーが多すぎる、または運動不足により消費カロリーが少ない、もしくはその両方が原因です。肥満の子の家族には、肥満が集積する傾向があり、食事量や味付け、そしておやつ習慣などの傾向で発症しやすくなると考えられます。
また、学童期前半で肥満がある場合は、およそその40%が成人になっても肥満になります。そしてさらに、思春期を迎える頃に肥満がある場合には、80%が成人に持ち越すと言われています。
動物は飢餓状態になったときの蓄えのために、脂肪細胞に脂肪を蓄えます。脂肪細胞は第一次成長期、第二次成長期のときにその数が増えますが、一旦増えるとなかなか減少しないとも言われています。ですので、成長期に肥満傾向にあった人は肥満細胞が脂肪を蓄えやすくなっていると考えることができます。さらに言えば、肥満細胞が問題となるのは皮下脂肪ではなく内臓脂肪です。内臓脂肪は腹囲がよい指標と言われていますが、5歳以上の小児では男性が85cm、女性が90cmが上限であり、それ以上になると内臓脂肪が蓄積しておりより深刻度が高いと考えられます。
乳児期の肥満
乳児期(0歳台、1歳になるまで)の赤ちゃんは皮下脂肪も多く、体の関節部がハムかちぎりパンのようにはちきれそうになっていることもよく目にします。これはこれでとても可愛いものですが、中には「太りすぎではないですか?」と気にされているお母さんや、「ミルクを薄めろと言われました」というお母さんまでいます。一般的に乳児期の肥満傾向は、あまり気にしないでいいと言われています。あまりにも常軌を逸している場合や、低身長や発達遅滞も伴う場合には、二次性肥満(他に基礎疾患があって肥満が症状として現れている)を考慮した診察や検査が必要になることもあります。そのあたりについては4か月健診、10か月健診など行政の健診でのチェックで十分でしょう。
幼児期以降の肥満の影響
先ほども書いた通り、幼児期にあたる第一次成長期に肥満細胞の数があまりに増えてしまうと、その後の人生での肥満のリスクが高まってしまいます。幼児期以降の肥満のリスクとしては、高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病のリスクです。もちろんこれらの病気は、肥満がなくても加齢によっても起こりえますが、例えば米国の研究によれば、重度肥満にあたる人は70歳までに50%が生活習慣病による合併症で亡くなることを示唆しています。アジア人でもBMIが5上昇するごとに死亡リスクは30%上昇すると言われています。
また、2020年に大流行している新型コロナウイルス感染症についても、肥満があれば重症化率が6倍以上になると言われています。
高血圧や高脂血症など、肥満の体全体に及ぼす影響が現れてくるのは、多くは思春期以降です。まだまだ症状ないし大丈夫、いつか痩せればいい、と思っていても、こうした影響が出てからでは相当なダメージをうけた後であり回復はかなり困難になります。長期に渡り定期受診と投薬によるコントロールを行っても、症状の進行を遅らせるくらいしかできません。