小児科学会では「外表がスムーズで口の中を滑りやすい果物・野菜は、1/4以下の大きさに切って与えること」と注意を促しています。
4歳以下で覆い、「食物の誤嚥」
誤嚥と言えば、赤ちゃんがおもちゃなどを口にしてしまって誤って飲みこんでしまうことをイメージする人も多いと思いますが、実は食物の誤嚥は1歳から4歳くらいまでの子供に多いと言われています。その原因としては、0歳台はまだ離乳食や刻み食が与えられていること、1-2歳になると大人のとりわけ食が多くなるが、また咀嚼機能が不十分なため、噛み切ったり奥歯ですりつぶしたりということが出来にくいということが挙げられます。
危険な食物の例
代表的なものがアメですが、ガム、ピーナッツなどのおやつは、ちょうど咽頭を通過して気管のところでひっかかりやすい形状と大きさで、誤嚥しやすいものの筆頭に挙げられます。日本では大豆や枝豆などの豆類が一番多いとされています。
そして、意外なことに、その次に挙がってくるのが、ブドウやトマトです。特にこの季節は、美味しい巨峰やピオーネ、そして通年ではプチトマトがよくお弁当などにも入れられますが、これらは幼児の口の中でよく滑り、咽頭の奥に詰まってしまうと、気道を完全に閉塞させてしまう径です。
ブドウ誤嚥の一例
小児科学会のHPではinjury alert(傷害速報)として、子供のブドウによる窒息死の症例が何例か載っています。
その報告によれば、直径3cmの皮を剥いた状態の種無しブドウまるごと1個を、1人で摂取していた2歳6か月の子さんが、突然咳込んだあと意識消失し、母親が掻きだそうとしたが届かず、救急要請。救急車を待っている間に、通行人によりハイムリッヒ法(後述)を施行され、それによりブドウが排出されて事なきを得た、ということです。
また、1歳6か月の症例では、同じく種無しのブドウを摂取した直後に顔面蒼白およびチアノーゼを来し、背部叩打法でも排出できず、救急要請。病院に到着後、喉頭鏡で喉頭展開しブドウを一部吸引できたものの、その後死亡された、というなんとも痛ましい報告がありました。
今回また新たに保育園で、ピオーネの誤飲による園児死亡の事件が起こり、やはり円形で滑りのよい食物に関しては、まるごと与えるのは絶対に避けるべきだと再認識してほしいと思います。
誤嚥したときの対応
背部叩打法
気道を確保しつつ、背中を思いっきり叩く方法です。乳幼児の場合は、頭を下にしてうつむけの状態で、背中を思いっきり叩きます。

ハイムリッヒ法(胸部突き上げ法)
後ろから抱え込み、前で組んだ拳でみぞおちを突き上げる方法です。

窒息後にも起こる「陰圧性肺水腫」
また、気道の完全閉塞を起こした症例では、その後の「陰圧性肺水腫」にも注意が必要になります。遅発性肺水腫とは、窒息したしばらく後から肺に水が溜まってしまう病態です。
ブドウなどで気道が完全に閉塞した状態になると、必死に息を吸いこもうとすることにより気道は強い陰圧(=空気が少ない状態)になります。その陰圧によって、組織や血管から水分が染み出てしまい、肺胞が水浸しの状態、つまり肺水腫の状態になります。また、窒息になりアドレナリンが過剰に分泌されることにより、末梢血管が締まり、中枢に血液が集まり、肺血流も増加することから、肺水腫の病態がさらに悪化します。
陰圧性肺水腫は、吸気の力が強い成人男性でのリスクが高いと言われており、成人の窒息エピソードの後10%以上に起こるというデータもありますが、子供でも起こらないわけではありません。窒息解除したにも関わらず、数分から数時間以内に急速に起こってくる呼吸困難があれば、本症を疑う必要があります。
終わりに
冒頭にも書きましたが、球形でつるつるしているような食物で、直径3.5cm以内のものは誤嚥の可能性があり、命に関わる重大事故につながることがあります。ピオーネやマスカットなど、まるまる一粒あげたい気持ちはよく分かりますが、面倒でもひとつひとつ切って与えるようにしましょう。自戒を込めて。
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