コロナ禍の中で、今現在全国の病院の経営状態は著しく悪化しています。某病院では看護師のボーナスがカットされるうえに、巨額の資金で不要不急の改装工事が行われることに反発した職員が、大量に退職願を出すとか出さないとかいうことにもなっているようです。
現在の病院の様子
緊急事態宣言が解除され、付近での患者さんの発生がほぼ無くなり、コロナ病棟は開店休業の状態が続いていましたが、第2波のはじまりかとも噂されている昨今、また数名のコロナ患者さんが入院されています。
一時は不要不急の検査も中断せざるを得ない状況だったため、健診や検査入院、そして待機手術なども延期の措置を取っていましたが、今は一旦解除になっています。ただし、無症状のコロナ患者さんが紛れ込むのを防ぐために、予定手術の患者さんには入院前もしくは入院してから、PCR検査を受けてもらうことになっています。
内視鏡や心臓カテーテルなども従来通り制限なく行うことになっています。だいぶ元の数に戻ってきてはいるものの、まだ100%というわけではなく、外来の人数もまだ完全には戻っていません。「念のため」の受診が減っただけならいいのですが、本来病院で経過観察すべき人が予約のときにも受診されないケースも目立ちます。
小児科では、学校が始まってからちらほら感染症も流行りだし、また保育園や幼稚園でも夏風邪や溶連菌など、既存の感染症の流行がみられるようになっています。また、腹痛や頭痛、倦怠感などの不定愁訴で来られる思春期以降の患者さんも少しずつ増えていますが、まだいつもの5割程度といったところです。
コロナを受け入れた結果どうなったか
風評被害の現実
コロナの入院患者を受け入れている、ということは、地域の住民に大々的にお知らせしているわけではなく、むしろ風評被害を恐れて細々とやっている程度です。コロナの入院患者を受け入れるときには、感染リスクを無くすため、別経路から直接病棟に入れるようになっていますが、その誘導の際に、完全防護をした人が何人も病院の周りをウロウロするので、かかりつけの患者さんにも不安を与えかねない、としてなるべく隠密にやるようにしていました。しかし、それでも噂は飛んで、「あそこコロナいるらしいよ」と言われているよ、と近隣のママから何人も聞きました。全国調査では、小児科の5割以上の外来が、患者5割減だったということでしたが、風評被害もあってか、うちの病院では外来患者は小児科に限ってですが9割減となりました。今までのところ、小児のコロナ患者の受け入れはしていません。
病気自体も減った
風評被害だけでなく、休校や保育園等の登園自粛により、病気自体が減りました。また、他の内科や外科も軒並み外来患者が激減し、外来からの入院がなくなり、病院のベッドは常に50床ほど空きがある、という状況が続いています。楽だからいいじゃん~っていうわけでもなくて、業務的にはそれほど忙しさは変わりません。しかし、50床空きがあるということは、それだけ病院の収入が少なくなるということです。病院を黒字に保つためには、平均で空き病床を20床程度にしなければならず、日々、赤字を作っていっています。また、手術での収入も、病院の貴重な収入源ですが、それもなくなり、大打撃になっています。
コロナ病棟の様子
コロナ患者が多数入院していた頃は、コロナチームが稼働して勤務を行っていました。それが一旦解散し、今は各病棟から担当者を出して回している状況に戻っています。なるべくオンラインで済ませるような工夫はされているものの、消毒や防護具、そして人手は通常の倍以上かかります。また、コロナの中等症以上の患者さんに関しては、保険診療費の補助が国から出るので3倍になりますが、軽症者は手間がかかるだけでまったく収益アップにはなりません。それどころか、常に新規患者さんのために病床を空けておくだけでなく、経路確保のためにも空床を確保しなければいけないので、補助金だけでは全く補てんできません。
入院費でも赤字が多い
病院は大抵DPCという制度を導入しており、「包括医療」というものを行っています。包括医療では、だいたいの病態や病名で、診療報酬の総額が決まっており、その範囲内になるべく押さえて診療することが求められます。検査をしすぎると病院の持ち出しで赤字になります。コロナの重症患者は、人工呼吸器やECMOなどを使えば信じられないくらいの医療費がかかりますが、これは大部分が病院の持ち出しになることがあります。コロナの軽症患者に割り当てられる点数はそれほど高くないため、血液検査や画像検査をしたり、入院日数が長引けば長引くほど、病院の利益としては少なくなっていってしまうというのが、今の日本の保険診療制度の実態です。
物品の確保は継続して必要
第二波以降に備えて、防護具や消毒薬などは継続して仕入れを確保しておかなくてはいけません。前回備蓄していた分だとまったく足りなかったので、今は会議室を削って倉庫として部屋を確保して継続的に仕入れてもらっています。高騰していた消毒液なども通常の卸値に戻っていますが、次の波を想定してどれくらい備蓄しなければいけないのかは見当が付きません。
コロナの補助金はいずこに?
この春だけでも数千万から数億に上る赤字が出たということですが、コロナ患者を受け入れたため、いくらかは補助金が国からおりるとのことでしたが、補助がおりたという話は一向に聞きません。また、コロナ対応の医療従事者にもお金がおりるともニュースで言っていますが、現場にはまったくそのような話はありません。それどころか、冬のボーナスは望み薄だろうということを事務長から伝え聞いています。さすがに大量辞職ということはないだろうと思いますが、病院としてはかなり経営が苦しいのが末端まで伝わってきます。
コロナ受け入れ病院が消える!?
全国のコロナ受け入れ病院は同じような感じだと思います。大学病院など一部の高次医療機関は、組織が大きいために、一時しのぎにも対応できますが、中小病院ほど、経営状態が職員の待遇にも直結します。コロナを受け入れていない病院も、患者数減とコロナ対策のダブルパンチで収入は激減しています。さらに、コロナを受け入れた病院では、リスクばかり高く、風評被害や医療従事者の差別も実際にあり、いわゆる「受け入れ損」の状態で職員は疲弊しています。当然、このままでは全国で「感染症指定病院」を返上するような動きも出てくると思われます。
経済を回すことも大事ですが、その基盤となる病院には、つぶれないようにそれ相応の手当をしないと、足元から医療崩壊を起こす可能性があると感じています。