コロナPCR検査、増やせる?増やす必要ある?

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最近のニュースでは、必ずといっていいほどPCR検査件数が足りないということが議論されています。地方都市の感染症指定病院で勤務する立場から、現在のPCR検査の在り方について、考えてみました。

PCR検査をするときには、どういう流れになっているのか?

1人の発熱者が来院されて、PCR検査にスムーズにたどり着けるとして、当院での流れを紹介してみます。

① 病院入り口で発熱を確認した患者さん(多くは事前にお電話いただいている)を、まず別経路で隔離(多くは車の中で待機)、簡単な質問用紙を渡し問診。その際、防護具を来た看護師により血中酸素飽和度も測定。
 保健所からの検査依頼として患者さんが来られることもありますが、この場合も同じ経路でご案内します。

②発熱外来担当の医師は、専用の部屋でN95マスク、フェイスシールドやゴーグル、エプロン、手袋を着用し待機。用意ができたら呼び込み、問診票に基づきさらに詳しい症状を聞きながら、必要な診察をして診断を絞っていきます。

③その後、必要な検査の指示を出します。血液検査なども、普通は別室で血液検査担当の他の看護師がしますが、防護具が足りないため節約せねばならず、同じ看護師がしなければいけないため、出来る限りその部屋で行います。
 CTやレントゲンが必要と判断されても、すぐには撮影できません。他の患者さんの検査の合間を縫って、検査室が空いたら、外来の人の流れを完全に止めて経路を確保し、撮影室まで患者さんをご案内し、検査が終わったらその部屋を消毒します。
 帰りの経路を確保するためまた他の人の流れを止めなければいけません。途中、「トイレ行きたい」と言われれば、また人の流れを止めてトイレに案内、その後拭き上げ。1人の患者さんがある程度までのことまで終わらないと、次の人を診察することができません。

④血液検査やCT検査も結果がでるまでに少し時間がかかります。CT検査は画像はすぐに上がりますが、場合によっては放射線科の先生に読影してもらわなければいけないこともあり、さらに時間がかかります。検査の結果が全部で揃ったら、車内などで待機している患者さんを再度呼びに行き、結果の説明をします。

⑤検査結果によりPCR検査が望ましいと判断されれば、検体採取専用に設置しているテントに案内し、検体を採取します。

このように、各々の病院で多少の差異はあるでしょうが、通常業務の傍らで他の患者さんを守りながらPCR検査をしようとすると、かなり煩雑な手順を取らねばならず、一人当たり1時間程度かかってしまうこともしばしばあります。平常時はすぐに入院して治療につなげていけるはずが、コロナを想定しなければいけないがために、どうしてもいろいろなところに滞りができてしまいます。

通常診療でコロナと他の発熱疾患を同時に診ようとするならば、上記のような問題があるので、これを解決するのであれば、国などが主導権を取り、地域にPCRだけに対応するセンターを作り、それこそドライブスルー形式で希望者に検査を受けさせるような体制づくりをする必要があります。となると、今度は誰がその検体を採るのか、場所の確保や、安全に採るための設備も必要だし、一般の人では採れないので医師や看護師を確保する必要があります。当然報酬も必要でしょうし、、といふうに、どんどん問題が湧き出てきます。

PCR検体はその後どうなる?

検体は業者あるいは市町村のPCR検査のできる施設に運ばれ、そこで検査の特殊の技術をもった人によって、遺伝子抽出・増幅といった専門的な手技が行われます。(参照;新型コロナウイルス検査について)これについても、技術者の人数はかなり限定されており、また、時間を短縮できるものでもなく、1日2サイクル回すのがやっとのため、結果は数日後、ということもあります。また、技術者の育成も一朝一夕とはならず、しかも手技の精度によって検査の精度も変わってしまうため、ますます検査の人員を増やすことが難しくなります。 さらに、検査のためには何種類もの試薬が必要になりますが、この試薬も不足している状況です。

実は大学には大抵PCR検査の設備は揃っていて、試薬さえあれば、大学の研究者がPCRをすることは可能だと言う人もいます。筆者の同僚も、何人も基礎研究に携わっていますが、はじめに習うのはPCRだと皆言っています。ただし、基礎研究をしているからといって、すぐに臨床のPCRができるわけでもないし、おなじPCRでも手技はまったく同じではないため、そのための練習は誰しも必要でしょう。さらに、自分の研究の手を止めて検査に協力することになるため、他の研究に遅れが出てしまいますし、検体を扱うことによる感染リスク拡大の問題もあります。 

上記のように、PCRセンターを設置して、膨大な数の検体が出されるようになれば、今の検査体制では到底対応することができません。これも国などが先導して、全自動の機械を導入したり、大学などにいる研究者の力を一時的に借りたりするなどの対策が必要になりますが、現実的ではありません。

そもそも、なぜPCR検査をするのか

 自分がコロナウイルスに罹っていて、周りに感染させる状況にあるのかないのか、いつまで自主隔離を続けなければいけないのか、心配になる心情はよく分かります。家族に免疫力が低下している人がいたり、職場からのプレッシャーもあります。しかし、PCR検査は前述の通り、感度が6割程度と低いため、たとえ検査結果が陰性であっても、コロナ感染を否定できるものではありません。そのため、「コロナウイルスではない」ことを証明できたことにはならず、今の時代、少なくとも発熱や感冒症状がある限りは自主隔離を続ける必要があります。 仮にPCRの精度が上がったり、何度か繰り返すことにより偽陰性率を減らせたとしても、「そのときは」かかっていない「だろう」ということまでしか言えず、明日にでも罹患するかもしれないですよね。そうなると、きりが無くなってくるのです。 よく病院にも「陰性確認書が出せないか」といったような要望が来ますが、そもそも「コロナウイルスに罹っていないことを証明すること」自体が不可能なのです。

PCR検査をする理由は2つあって、ひとつは症状がある人でしんどいに「適切な治療をする」ために診断することが必要なのであって、症状がある人でも元気な人はそのまま自分の健康観察をするだけで十分です。もうひとつはクラスターを追うことで、この場合は無症状の人も陽性の可能性が高いため検査する必要があります。

「自宅で経過観察をしているうちに急変した」という不幸な事例もあります。ただ、厳しいようですが、早いうちにPCR検査をして拾い切れていたかどうかも分からないですし、急変は病院でも起こりえます。すぐに対処できれば救命はできた可能性もありますが、肺炎が急性増悪した、あるいは血栓での急変は救命自体が難しいかもしれません。

そして忘れてはならないのが、PCR検査はできなかったけれど保健所の指示に従って自宅で待機して治った人がおそらく相当数いること。その方たちは、いたずらに外出することで周りに感染を広げることなく収束に貢献したでしょうし、その人達のおかげで現在日本では医療崩壊はおこっていないのです。

PCR検査は本当に足りていないのか?

日本ではPCR検査を絞りすぎたために全体像が把握できていない、という指摘もよく聞きます。確かに、東京でのPCR検査の陽性率は異常で、どこまで感染が昼がっているのか、専門家ですら見当がつかない、とコメントしています。でも、地方においては、本当にPCR検査は足りていないのでしょうか?

COVID-19は様々な国の対応の違いにより、その死亡率も各国でかなり差があります。それは生活様式も関与しているだろうし、人種的な違いもあるだろうと言われていますし、一部の人が指摘するようにBCGだったり、予防接種や他の要因も関連している可能性は十分にあります。

その中で、日本での現在の死亡率(死亡者/累計感染者)は約4%です。世界では平均して約7%、国別に見ると、アメリカが約6%、スペインが10%超え、中国では約5%、韓国で約2%です。死亡率は累計患者数が多くなればなるほど下がっていきますが、 累計患者はあくまでPCRで陽性になった人だけの数なので、検査を積極的にやればやるほど実際の死亡率に近づくわけです。検査体制が早くから整い、しっかりPCR検査をして感染制御できていて、医療崩壊もしていない韓国が、諸外国の中では一番正確な死亡率に近いと思われますが、それでも2%です。実際は韓国であっても検査漏れや無症状の感染者もいると思われるので、もっと致死率が低くなると言われており、おそらくは1%台に落ち着くと言われています。話を戻して、あの韓国の2%と比較しての日本の4%。そこまで検査が足りないと思われますか?思ったより検査できてるじゃん!と思うのは私だけでしょうか?

実際に地方都市で毎日毎日PCR検査をしていますが、実際に陽性になるのは当院のデータでは100件以上やって1件です(2020年5月時点)。しかも、陽性の1件は保健所からの紹介でした。(他院で陽性になった患者さんは入院で対応しており数に入れていません。)怪しい人を抽出しての陽性率がこれなので、PCRセンターを設置して希望者全員にたとえ検査を実施できたとしても、それほど患者さんを拾えるとは思えません。 今の時期、クラスター関連の感染が主流で、だいたいの患者さんの感染経路は追えています。PCR検査の門戸を広げても、検査することになるのは「コロナじゃないかと心配でたまらないただの風邪の人」「コロナをPCRで否定できると思って検査希望する人」が大多数になり、検査体制を圧迫するのは目に見えています。これはあくまで自分の感覚だけですが、 でも、実際これが地方都市の現場の感覚に近いのではないかと思います。

少なくとも今から検査数を増やせば、確実に見かけの患者数は増えます。だって、もともといた人を拾っているだけだから。でも、それがまたロックダウンの根拠になったりしないかどうかが一番懸念するところです。ウイルスとの共存をしなければいけない以上は、少しずつでも感染は受容していかなければいけないはず。そして重要なのは、易感染性の人や高齢者をいかに守っていくかだと思います。もっと言えば、いつかかかったら不幸にも死者が出てしまうのは一緒なのだから(自分だってそうなるかもしれません)、医療崩壊しない程度に感染者を許容することも重要なのではないでしょうか。

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