今週より、新型コロナウイルスのPCR検査が保険適応になったとのニュースがありました。保険適応になったことで、病院関係者や患者さん、または検査をしてほしい人にとって、何が変わったのか?を解説します。
今までのPCR検査の流れ
今までの検査の流れとしては、大前提で保健所が権限を持っていました。医師が検査が必要だと思っても、保健所からのOKが出ないとできない状況で、まず検査するまでに、患者さんご自身あるいは医師から直接、詳細な病歴と行動歴、そして現在の症状などを告げて、まず検査適応があるかどうかの判断をしてもらうことになります。今の段階では、発熱が数日以上続いていること、呼吸器症状があること、肺炎があることがだいだい検査適応の基準です。また、ライブハウスやクルーズ船などの関連や、周りの発症者の状況も考慮されます。
保健所に連絡して一連の情報を伝え、いったん保健所がその案件を持ち帰り、検討します。そして折り返し、検査の是非をお知らせしてくれるので、検査案件と認定されれば、やっと検査の準備にうつることができます。
今のところ検査は、感染室を備えているような一定基準を満たした施設でないとできないことになっているので、保健所から指定医療機関への打診があり、受け入れ可能となれば、時間の調整などをすすめていきます。
PCRのための検体は、咽頭のぬぐい液(専用の綿棒で採取)あるいは、喀痰(または吸引痰)の2種類です。基本的には採取した検体はすぐに-20で凍結保存され、なるべくフレッシュな状態でPCRの機械にかけます。病院で検査ができるところはほとんどない(研究室で独自にやっているところを除いて)ので、検体はすぐにあらかじめ病院で待機してもらっている保健所の担当者に渡し、持ち帰って検査してもらいます。すぐに検査できる場合でも6時間から8時間程度、そして、PCRの機械は1日に2回しが限度なので、午前の検体検査がもう始まっていれば午後に回るし、それがいっぱいだったら翌日、というように、検査までの時間が伸びていきます。ちなみに、PCR検査費用は国が持つのでタダ、診察費用は患者さんの自費診療で全額負担となりますが、今のところは病院が費用持ちだしで検査して回収できないことも多いため、問題となっています。
結果は保健所が確認し、病院と患者さんに連絡が入ります。これまでの間、患者さんは、肺炎の状態が悪ければそのまま入院していますし、状態がよければ自宅で隔離されている状態です。
ふぅ、やっと1件、といった感じです。これでは検査の件数が伸びないのもお分かりですよね。この間、病院では当然他の外来業務も続いていますし、PCRの検体採取だけではなく、血液検査やインフルなどの迅速検査の確認、またCTなどの画像検査も行わなければならず、そのたびに経路を確保して他の患者さんとの接触がないように配慮したり、CT室やエレベーターなどの消毒も行わなければいけません。
では、保険適応となった今、この流れはどう変わるのでしょうか。
保険適応となった後の検査への流れ
基本的には、保険適応になっても、検査の是非の判断をするのは保健所なので、大きく流れは変わりません。ただし、医師が必要、と判断したときに、保健所に突っぱねられることはなくなります。そして、指定医療機関も今の時点では変わらないため、結局は保健所を通して、検査を行うことになります。
例えば、咳がひどくて熱が続いている患者さんがいたとして、肺炎もありそうなので、医師がコロナPCR検査が必要と判断したとします。そこから、保健所に連絡をし、病歴などの詳細を告げるのは同じです。保健所はそこで「必要ない」と判断することはありません。そして、病院から検査会社と連絡をとり、検体採取の段取りを組んでいきます。
その後の検体の採り方は全く同じで、専用の部屋で防護具を付けて検体を採取し、取れた検体は検査会社に直接渡します。費用は保険適応になるので、再診料なども含めて1割または3割負担など、いつもの医療費と同じだけ支払いが発生します。ちなみにPCR検査1回あたりおおよそ18000円の費用が発生します。
検査の結果は病院に直接報告されます。報告を受けた病院は、患者さんに連絡するだけでなく、保健所にも連絡する必要があります。国が全数把握する疾患だからです。
いかがでしょうか?保険適応になったからといって、大きく件数が伸びないのは、そもそもの検査体勢の構造に問題があるからです。そして、費用面でも負担が増えるということであれば、一体誰得?の保険適応です。国は検査費用負担が少し減りますし、検査会社はおお儲かりになりますかね。ただし、検査のキャパシティは大幅に増えます。
今後どうしていくべきなのか
COVID-19はなるべくたくさん検査をして広がりを把握するとともに、軽症のうちから必要な治療介入をすべき、という専門家もいますし、医療崩壊を防ぐためにも、中等症/重症の方が検査できないということがないように、基準を設けて限定的に検査をしてくべき、という専門家もいます。私個人の考えは後者寄りです。軽症のうちから介入するにも、介入すべき策がないため、新型コロナウイルス感染症の大多数を占める軽症者は拾い上げる必要がないと思っています。(補液や酸素吸入などの対症療法を必要とする人は、もはや「重症」の範疇ですので、迷わず検査対象だと思います)
ただ、広がりを把握する、ということに重点を置くなら、韓国などのようにとにかく検査をやりまくるしかありません。政府や専門家会議でそうすべき、という判断になるのなら、もちろん根拠は示してほしいですが、それに従います。ただ、今の状況では無理なんです、ほんとうに。
日本は検査制限をして患者数を隠蔽しようとしている、という外国の批判があり、それに対応するかたちで検査件数を増やそうとするなら、検査可能な指定医療機関の縛りを無くすか、あるいは検査専門の施設を整備してそこで片っ端から検査していくほうがいいでしょう。今のままでは何も変わりません。
とにもかくにも政府のリーダーシップが問われます。現状打開のための、方針なり方策を早く講じてほしいものです。