「運動誘発性アナフィラキシー」という病名をご存じですか?その名の通り、運動が誘発するアナフィラキシーという病気なのですが、今回はこの病気について解説していきます。
運動誘発性アナフィラキシーの定義
運動誘発性アナフィラキシーは広い意味での食物アレルギーの一種です。
通常、食物アレルギーは、原因食物を摂取したときに、アレルギー症状が現れますが、この運動誘発性アナフィラキシーでは、原因食物の摂取だけでは症状はでません。原因食物を摂取した後の運動が引き金になって、即時型のアレルギー症状、それも比較的重症のアレルギー症状を起こすものを、運動誘発性アナフィラキシーと定義します。
運動誘発性アナフィラキシーの特徴
運動誘発性アナフィラキシー(以降、FDEIA)は、10-20歳台の比較的若い年代に多い病型で、もともとなんらかのアレルギー体質を持っていることが多いと言われています。原因食物として有名なのが小麦ですが、果物や野菜での症例報告も増加しています。
発症は原因と思われる食物を摂取してから2時間以内に比較的激しい運動をしたときに起こりやすいと言われています。また、疲労やストレス、月経前の状態や、鎮痛剤の使用でも誘発されやすいことが分かっています。
症状としてほぼ必発と言われるのが皮膚症状で、多くの場合広範囲のじんましんが出現します。それに加えて、咳や喘息症状などの呼吸器症状が約7割の患者さんで認められ、約半数がショック状態になるとの統計があり、発症すれば高確率で危険な状態となります。
運動誘発性アナフィラキシーの診断
FDEIAの診断は、主に詳細な問診によってなされます。逆に言えば、この病気を疑って詳細な問診をしないと、通常のアナフィラキシーとして、原因不明で見過ごされる可能性もあります。
また、通常の小麦などの軽症アレルギーの場合も、そのときの体調などによって、運動後や入浴後などに発疹の症状が出ることがありますが、厳密にはこの場合はFDEIAとは言いません。ただし、両者の区別は非常に困難でもあります。
発症前2時間前後に摂取した食物をリストアップし、特異的IgEを測定し陽性であれば原因食物である可能性が高まりますが、陽性だからといって必ずしも決めうちできるものでもありません。あくまで臨床的に、または再現性を持って同じ症状が現れるかどうかを専門的に判断する必要があります。
運動誘発性アナフィラキシーの治療
アナフィラキシー症状が起こってしまった場合には、通常のアナフィラキシーと同じ対応 をします。つまり、ショック症状に対しては急速な点滴とアドレナリンの筋肉注射、呼吸器症状に対しては気管支拡張薬の吸入、また皮膚症状などに対しては抗アレルギー薬の投与を行います。
基本的には運動誘発性アナフィラキシーの根治は難しいため、2回目以降起こらないようにする対策が一番現実的です。そのためには、原因となっていると考えられる食物を、運動前2時間は摂取しないようにすること、鎮痛薬などアレルギー症状を増強しそうなものは、なるべく運動前には使用を控えること、そしてそれでも発症してしまったときのために、エピペン(自己注射型携帯アドレナリン注射)を準備することなどが挙げられます。
頻回に再発する例や、仕事上どうしても食後の運動が避けられない(自衛隊員など)場合には、個人に応じて対応を考えていく必要があります。