インフルエンザの流行時期に入ってきました。今年も多くの人がインフルエンザの予防接種のために医療機関を訪れています。今回は、そんな中開発が完了したと発表された、インフルエンザの新しいワクチンについて。
経鼻ワクチンってなに?
経鼻ワクチンとは、液体状のお薬を鼻の粘膜から吸収させる形のワクチンです。粘膜は通常の皮膚とは違い、薬剤などを吸収する性質を持っているため、投与が可能な経路のひとつです。粘膜からの吸収を狙うという点では舌下錠などと同じ種類になります。
経鼻ワクチンの特徴
専用のノズルのついた注射器のようなもので、鼻の奥に液体を投与します。このときに、鼻水などの異物がある場合には、吸収効率が落ちてしまうために、効果が半減してしまいます。通常、鼻に水道水などを通すと痛みがありますが、こうした経鼻製剤は痛みが少なくなるもしくはなくなるように、濃度や成分が調整されています。
従来の注射ワクチンは、皮下あるいは筋肉内に投与し、血中に取り込まれます。その際に、血中の免疫細胞に認識されると、次に体内で同じ物質が認識された際に、免疫物質である免疫グロブリンの中でも、「IgG」と言われる成分を多く作りだすように反応が起こります。
ところが、粘膜から吸収された場合は、粘膜の主な免疫物質である「IgA」という免疫物質が多く作られるような反応が起こることが知られています。
インフルエンザウイルスの侵入は「粘膜から」
インフルエンザウイルスは、鼻や咽頭の粘膜から体内に入ることが分かっています。つまり、粘膜のIgAのバリアを破って体内に入り、増殖するのです。そのため、 感染予防に は、IgGよりもIgAが大切ということは以前から指摘されていました。
この理論に則り、インフルエンザワクチンはIgAを誘導しやすい粘膜吸収型のワクチンのほうが効果が高いと言われています。
これまでの経鼻ワクチンの現状と新しいワクチン
米国で2003年に承認され実用化されている「フルミスト」という経鼻吸収型のワクチンがあります。ところがフルミストは「弱毒化」ワクチンであり、水痘や麻疹風疹ワクチンなどと同じように、免疫力の低い人には投与できず、また、インフルエンザそのものを発症してしまうリスクもありました。また、インフルエンザへの免疫力を多少もっている人に投与すると、通常の免疫反応が起きてしまい、弱毒化ワクチンを早期に排除してしまうためにワクチンの効果が得られないという懸念もされていました。
今回開発されたのは弱毒化ではなく「不活化」ワクチンであり、体内では通常病原性を持ちません。なので発症のリスクもなく安全に使えますし、排除されて効果がなくなるという心配もありません。
いつごろ承認になる?
現段階ですでに治験が終わり、これから承認申請という段階ですが、おそらく1年から数年以内には実用化されると思われます。「フルミスト」の国内承認はまだおりていません。また、その他にも、いくつかの不活化経鼻ワクチンが全世界で開発段階であり、まだまだワクチン事情は変わってきそうです。