精神的な腹痛の見分け方と対策

sponsor’s link

「子供がおなかを痛がる」「いつもちょっと痛いといってはその後けろっとしている」「本当に痛いのかわからない」といった声は外来でよく聞かれます。実際、子供は特におなかの病気がなくても、精神的なストレスで「腹痛」を訴えることがしばしばあります。ここでは、精神的な腹痛の見分け方を紹介します。

実際の症例を見てみましょう

症例

7歳児。
4週間前に発熱、下痢、嘔吐があった。数日で解熱し、下痢や嘔吐も治まったが、その後時折おなかが痛いと訴えるようになり、母親がおなかの病気を心配して来院。

診察のすすめかた

腹痛の有無

こんな子が受診したとき、まずは、腹部の聴診や触診など、一般的な診察を行います。診察で分かることは、「今」腹痛があるかどうか。または、大きな腫瘤があったり、おなかが張った状態であると、触診や打診で分かります。

現在の腹痛の有無は、仰向きで寝かせて膝を少し立たせ、おなかに力が入りにくい状態にして、おなかを何か所か押してみます。おなかが痛い子は、押す前から腹筋に力が入っていることが多く、また腹痛が強い場合には仰向き自体をしんどがります。そして、2本の指でぐっとおなかを押さえると、余計に痛いので、腹筋にさらに力が入って押し返してくる反射が起こります。ここでくすぐったがって笑ってしまう子は、腹痛に関してはあまり強いものがないと考えていいでしょう。

また、おなかの痛みは大抵が腸の蠕動の痛みです。蠕動痛には時間によって波があるのが普通なので、受診時に腹痛がなくても、詐病と決まったわけではありません。そして蠕動の痛みは大抵30-1時間も続けばその後は改善します。ずっとずっと同程度に痛みが続くことはありません。

波のある痛みでなく、圧痛点(ここ!っていう痛みの場所)がある、あるいは弱くてもずっと痛い、という場合は、どちらかというと精神的な腹痛は除外して他の原因を探さなくてはいけません。

よく、「盲腸(虫垂炎)では?」という心配もされていますが、この症例のように、数週間に渡って治りもしないけど悪化もしないものは、盲腸の可能性は限りなく低くなります。

腹痛のある時間帯(タイミング)は?

精神的な腹痛の場合、受診時に腹痛があること自体が少ないですが、自宅で腹痛を訴えるタイミングが重要になります。

たとえば、食後に決まって腹痛が起こるときは、腸蠕動によるものも考えられますが、消化液の過剰によって起こる「胃炎」「十二支腸炎」などが鑑別にあがります。

また、子供の慢性腹痛で一番多いのが便秘症ですが、その場合は数日間便がでていない、左下腹部が痛いなどの便秘の兆候を聞き取ります。便秘の場合も、食後に腸が動くときに便意とともに腹痛が起こりやすくなります。触診ではときに便の塊を触れることができます。

精神的な腹痛は、大抵決まった時間に起こるものではなく、日中なんでもないときに起こります。大好きなことをしていたり、遊びやゲームに熱中しているときには訴えることが少ないです。寝ているときに腹痛で起きることもあまりありません。これが、精神的な腹痛の最大の特徴です。

このように、簡単な腹部診察と問診から、だいたいは精神的な腹痛かなと目途がつきますが、念のため検査を行うこともあります。

検査はどんなことをする?

慢性的な腹痛がある場合、そしてそれが精神的な腹痛である可能性が高い場合には、CTなどの放射線被ばくの可能性のある検査は行わないことが多いです。被ばくの少ないレントゲンでガス像や宿便の状況を確認したり、エコーの検査で他の腹部臓器(胆のうや膵臓を含め)の炎症などがないか確認したり、腸管の動きや中の消化物の状況、腹水の有無、思春期を迎えた女子であれば生殖器の異常の有無を検索します。血液検査ではあまり分かることが少ないと思われますが、必要と思われるときには追加することもあります。

こうしたスクリーニング検査でなにも異常がない場合にはじめて、「精神的な腹痛の可能性」を念頭に置いていることを家族や本人にも説明し、問診を追加していきます。

「ストレス源」にこころあたりはあるか?

腹痛の原因になっているのがストレスである可能性が高いということになれば、まずは養育者に「何か生活に変化はありましたか?」とか「最近落ち込むようなことはありませんでしたか?」などという問診を行っていきます。

「最近引っ越しをした」「いじめにあっている」「離婚した」など、分かりやすい理由があればいいですが、大抵の場合は親にも明らかな原因が分からないことのほうが多いです。そして、小さい子であればあるほど、本人にも原因が分からないことが多いです。小さいことが積み重なっても起こりうることで、これといった大きなイベントがなくても知らず知らずのうちに追い詰められてしまうことがあります。

また、この症例のように、はじめは発熱もあり明らかな胃腸炎症状があり、そのあとから発症するというパターンも多く見かけます。胃腸炎のあとは、荒れた粘膜が完全に修復されるには約1か月程度かかると言われており、腸機能は比較的長期に渡って障害されています。この間にストレスが加わることによって、少しの腹痛も増幅されて感じられるということも考えられます。気分も健やかに楽しく生活いるときには気にならなかった腹痛も、落ち込んでいるときには強く感じられるのは大人も同じですね。

腹痛が起こったときの対応

ここまでの診断にたどり着くまでには、親も「おなかの臓器に大きな異常はない」という自信が必要です。繰り返し腹痛を訴えられると、「何かわるい病気なのでは」と親もますます心配になり、それが子供にも伝染してさらに病状を悪化させていきます。

しっかり診察や検査をしてもらい、「大丈夫!」というお墨付きをもらったら、腹痛が起こったときにも「大丈夫だよ、お母さんがついてるよ。」「すぐに痛くなくなるよ。」といって安心させ、おなかをあたためて「の」の字で優しくマッサージをしてあげましょう。お母さんの魔法の手の出番です。

症例のその後

この症例では、何度かの通院を通して母親に詳細に問診すると、小学校に入学してから明らかなトラブルはないものの、いろいろなプレッシャーを感じていた可能性があること、宿題や習い事でオーバーワーク気味になっている可能性があること、母親も同様に余裕がなくなりきつく怒ることが増えていたことなど、はじめは分からなかったいろいろな「心当たり」が出てきました。

母親自身も疲れや心配のために眉間にしわを寄せていることが多くなり、そういえば家の雰囲気も暗くなっていた、という言葉も聞かれました。

習い事を少し制限し、母親にも笑顔を増やしてもらうようにして、やらなければいけない「ルーチンワーク」から解放する日を増やしていかれたようです。母親も笑顔がなかったことを自覚してからは、あえて笑うように、スキンシップをしっかりとるように、こころがけていったようです。

また、腹痛があるときには、前述のように優しくマッサージを行い、それ自体もスキンシップとしての治療であると心がけたそうです。「この忙しいときに~」と思っても、間違っても顔に出さないようにされたとのことでした。

そんなこんなで、徐々に症状はなくなり、学校にも少しずつ適応していったようで、めでたく外来には来られなくなりました。今でも風邪などで時折受診されますが、母子ともに元気そうで、経過良好です。

子育て中は、我が子のことを一生懸命に考えるあまり、それが逆に子供を追い詰めてしまうこともあります。お母さんが笑っていることが家庭円満、家族健康の秘訣なんだなぁと思った症例でした。

関連記事;
笑いの効能について
過敏性腸症候群

sponsor’s link

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする