学童期の低身長について

sponsor’s link

学校の内科健診で「低身長」でひっかけられた人。医療機関を受診する際に、どんな病気を想定して検査するのか、また受診時の注意点などを解説します。

学童期の低身長とは

学校健診では、日本人の平均的な体格から作られた「成長曲線」というグラフを利用し、そのグラフから大きく逸脱した人を「低身長」あるいは「高身長」として、医療機関での精密検査を受けるように指導します。「高身長」で引っかかることは少なく、問題となるのは多くの場合低身長なので、ここでは低身長について解説します。

母子手帳から続く「成長曲線」とは

赤ちゃんの頃から、健診のたびに母子手帳に記載のある成長曲線のグラフの上に、ご自身の赤ちゃんの現時点での身長体重をプロットしてきたと思います。

その成長曲線は、実は学童期に入ってもそのまま延長されたバージョンがあって20歳になるまでの身長および体重の成長曲線が利用されます。

こちらの標準身長は、2000年版のものでやや古いのですが、栄養状態があまりよくなかった戦後の日本の子どもたちが、少しずつ体格がよくなり、2000年あたりではもう身長や体重の増減は頭打ちになっているので、今後よっぽどのことがない限りは新しく改定されることはないと言われています。

この成長曲線基準図には男女それぞれに3、10、25、50、75、90、97の数字がついた基準線があります。この数字の単位ははパーセンタイル(百分位)という単位で示されており、例えば、3パーセンタイルの線は100人中前から3番目、50パーセンタイルは前から50番目に当る子どもの身長や体重の増え方を示してます。そして3から97パーセンタイルの間に収まっている場合を正常としています。SD(標準偏差)という単位で示されているものもありますが、基本的には考え方は一緒で、全くの標準が0SD、そして、その正常から離れた度合に応じて-1SDあるいは+1SDという具合で示されます。SDの場合は、2.5SD以上の振れ幅があると異常とみなされます。つまり、-2.5SD以下の身長であれば、健診に引っかかってしまうというわけです。

また、それぞれのパーセンタイルあるいはSDの曲線から大きく外れ、曲線をまたいでしまった場合は、伸び率が悪くなると言う意味で「成長障害」ということでまた引っかかってしまいます。

学童期の低身長で注意すべき病気と病態

成長ホルモン分泌不全性低身長

みんなが一番気にしているのが、成長ホルモンが出ているのか出ていないのか、です。成長ホルモン単独ではなく、その他の下垂体ホルモンの分泌不全を伴うこともあります。特に、成長ホルモン分泌不全は、その10%程度が脳腫瘍からの症状であると言われ、頭の画像検査も併せて行います。また、出生時に新生児仮死や黄疸が長引くなどの症状があった場合は、分娩時の下垂体ダメージが低身長につながっていることもあります。

診断には、成長ホルモンがしっかり分泌されているかどうかを診る必要がありますが、成長ホルモンは1日の中でも分泌に波があるため、負荷試験というかたちでホルモン分泌能をみます。具体的には、絶食下でインスリンやアルギニン、L-DOPA、クロニジンといった、成長ホルモン分泌を亢進させるホルモンを投与し、その刺激に反応して成長ホルモンが実際に分泌されるかどうかを測定します。だいたい30分ごとに3-4回の採血が必要になります。

成長ホルモンが分泌されていないと診断された場合には、保険を使って成長ホルモン製剤を投与することができます。毎日行う

自己注射になりますが、手間がかかるうえにとても高額なので、自費ではまず勧められません。そして、もちろんですが成長ホルモンが出ている子供に対しては、この自己注射は無効です。

Turner症候群

女の子で低身長を伴う染色体異常がある病気で、その他性腺機能異常や様々な外観的な小奇形を伴います。しかし、奇形といっても軽微であり知的発達も正常で学童期まで見逃されることも稀にあります。問題となるのは低身長と性腺機能異常なので、適切に成長ホルモンを補充しながら正常な二次性徴を誘導するための治療(ホルモン製剤の投与)が行われます。しかし二次性徴を誘導すれば、骨の成熟が進み身長は止まってしまい成長ホルモンが効かなくなってしまうため、治療は家族や本人と十分に相談して行う必要があります。

その他の低身長を来す疾患

実は、低身長の場合、「その他」が95%にも上ります。

家族性低身長

予測身長の式:

男性:(父親の身長+母親の身長+13)÷2

女性:(父親の身長+母親の身長-13)÷2

上記の式で、両親の身長から子供のおおよその最終身長を割り出すことができます。両親の少なくとも片方が成人身長の-2SD 以下(父親162cm以下、母親147cm以下)であれば家族性低身長の可能性が高くなります。

SGA性低身長

出生時の身長や体重が小さいと、その後の最終身長にも影響することが分かっており、在胎週数によって基準値が決まっていて、それを下回る基準を満たしたときには、SGA(Small for gestational age;在胎週数に対して小さい)性低身長と診断されます。SGA性低身長には、前述の成長ホルモン製剤の保険適応があります。

腎不全性低身長

腎臓の働きがうまくいかないと低身長になります。腎不全では他にも様々な弊害がでてきますが、低身長に対しては成長ホルモン製剤の適応があります。

軟骨異形成症

骨や軟骨などの結合組織と呼ばれる組織の形成異常を起こす病気です。骨や、骨が伸びるときに必要な軟骨が正常につくられないため、当然ながら身長はあまり伸びません。また、手足の長さも短くなります。重症のものは身長云々よりも先に命にかかわる病型もあります。

思春期が始まる時期の問題

思春期が早く到来すると、骨の成熟が促進されるため、それだけ身長に影響します。正常では、思春期に入ってから男子で約30cm、女子で25cm伸びると言われており、特に思春期に入る直前にスパートと呼ばれる、急激に身長が伸びる時期がおとずれます。男子で135cm、女子で133cm以下で思春期が始まると、男子で160cm、女子で150cm未満となる場合が多いと言われています。今のところ思春期早発の診断に引っかからないものは、病的ではないと判断されるため、有効な手立てはありません。

病院では、これらの病気を想定し、除外するために血液検査や骨のレントゲン検査などを組み合わせて診断が行われます。大抵の場合は、成長曲線に沿ってしっかり伸びていれば、大きな問題はありません。簡単な検査である程度は診断できるので、健診で引っかかった場合は、お子様に血液検査をするかもしれない、というお話しをして病院を受診されるのがよいですね。

関連記事;乳幼児の低身長について
思春期早発症について(女の子)

sponsor’s link

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする