人が死亡した際に、書かなければいけない書類があります。それが、死亡診断書あるいは死体検案書です。これらの書類は、人の死亡を医学的・法律的に証明するもので、この書類の記載に基づき、死因統計なども作成されています。
死亡診断書と死体検案書のちがい
人が死亡したとき、それを確認した医師が死亡診断書を書きます。医師は、生前に診療していて、そのときに罹っていた病気(あるいはケガなど)に関連して死亡が起こった、というときに、死亡診断書を書きます。また、最終診療から24時間以内に患者が死亡した場合、それまで診療を行った医師が「生前の診療に関連する病気で死亡した」と判定すれば、死亡診断書を出すことができます。
ところが、死因が不明の場合、「不審死」というカテゴリーとなり、この場合には死体検案書がかかれることとなります。死体検案書が作成された場合には、警察の操作や司法解剖が行われることになります。
二つの書類は同一の書類で、死亡診断書(死体検案書)と並べて書かれており、どちらかを二重線で消して記載します。

子供の死因
平成27年の人口動態統計によれば、子供の死因は以下の通りです。
- 0歳・・・1位 先天奇形 2位 呼吸障害 3位 不慮の事故
- 1~4歳・・・1位 先天奇形 2位 不慮の事故 3位 悪性腫瘍
- ・5~9歳・・・1位 悪性腫瘍 2位 不慮の事故 3位 先天奇形
- 10~14歳・・・1位 悪性腫瘍 2位 自殺 3位 不慮の事故
死亡総数の統計は、人口10万に対して85.3人の子供が亡くなっているという結果です。
子供が死亡した場合も、成人同様死亡診断書あるいは死体検案書がかかれることのなりますが、大人に比べて目立つのが不慮の事故です。
死因は果たして正しいのか?
こうした統計は、前述のとおり、死亡診断書あるいは死体検案書にもとづいてなされていますが、そもそも死亡診断書あるいは死体検案書の記載は本当に正しいのでしょうか?
子供が心肺停止であると確認された場合、大抵の場合は救急隊に連絡し、そのまま病院に運ばれます。そして、小児科医により心肺蘇生が施され、蘇生に反応しなかった場合は死亡として取り扱われ、診療にあたった医師により死体検案書が作成されます。ところが、小児科医は日ごろから死亡という事態になれておらず、死体検案書を書くことも、他科に比べて圧倒的に少ないのが一般的です(がん病棟など、特殊な場合を除く)。また、蘇生後の混乱した状況下で、その子供に関する情報がほとんどないまま死体検案書を書くことになり、それだけでも正確性に乏しいと言わざるをえません。
死体検案書が作成されても、そのことが果たして本当に正しいのか、検証されないまま、お蔵入りしてしまっている事例がたくさんあると考えられています。
Child death Review(チャイルド・デス・レビュー)
2000年にアメリカで行われた研究によれば、子供の全死亡のうち、3割は虐待などの「予防できうる死亡」であった、という結果でした。
子供の死亡事例に対して、直接的な死因だけでなく家族背景や養育環境なども吟味に加え、真の原因究明や、予防策があったのかなどを検証する、チャイルド・デス・レビューというものが注目されています。イギリスやアメリカなどではすでにシステム化されており、子供の「予防できうる死亡」を1人でも減らせるように努力が続けられています。
日本ではこのチャイルド・デス・レビューという概念が、まだまだ認知されておらず、個々の死亡例から次の予防可能死へと全く生かすことができていません。
今、日本小児科学会を中心に、全国の小児死亡例のデータを蓄積し、そのデータをもとに医療従事者だけでなく、行政からも各分野の専門家を募り、子供の死亡に対して一例一例検証しようという動きが広がっています。
原因の究明だけでなく、家族の救済にもつながる
突然命を失った子供の親は、計り知れない苦痛や悲しみに襲われるでしょう。せめて、我が子の命を奪ったものは何だったのか、はっきりとした原因が判明することによって、家族が救われるケースもあります。悲しみは癒えることはなくても、自分の責任だったかもしれない、と一生責め続けることはなくなるかもしれません。また、隠れた虐待が明るみにでることもあります。
子供の死と真摯に向き合うことこそが、子供を失った家族が子供に対して唯一できることであり、また唯一のグリーフケアです。そして、そのことは、家族だけでなく、社会全体がやらなければいけないことであるとも言えます。
「あなたの死を無駄にはしない」
不幸にして亡くなってしまった子供の命を戻すことはできません。しかし、その死を無駄にせず、その死から社会が学び、より子どもたちが安全で安心して暮らしていけるようにすることが、社会全体で子供を守るということにつながります。「あなたの死を無駄にしない」という言葉を、是非とも私たちが実践していきたいと強く思います。