ヘルペス歯肉口内炎とは
乳幼児でみられるヘルペス性歯肉口内炎についてまとめます。
ヘルペス歯肉口内炎の原因
単純ヘルペスウイルス(Human Herpes Virus; HHV)Ⅰ型というウイルスに初めて感染したときに起こります。
HHVにはいくつか型があり、Ⅰ型がこのタイプで、教科書的には主に口周りに感染することが多いと言われています。また、目に感染して角膜炎を起こしたり、髄膜炎を起こしたりすることもあります。HHVⅡ型は性感染症としても問題になります。
HHVⅠ型は、口腔内に感染すると、その後は顔の三叉神経という神経の神経節に潜伏感染し、宿主の体力が落ちると出てきて悪さをすることがあります。
ほとんどの人はHHVに感染すると言われていますが、感染した人の9割は何も起こりません。残りの1割の人に、「ヘルペス性歯肉口内炎」を発症します。
ヘルペス性歯肉口内炎の典型的症状
典型的には38~39℃程度の高熱がまず出現し、同時あるいは少し遅れて、口内炎が多発します。同時に、歯茎も真っ赤に腫れてぶよぶよしてきます(歯肉炎)。口内炎も痛いですが、この歯茎の腫れもやっかいで、歯磨きなどしようものなら、簡単に出血を起こし、口が血だらけになることもあります。そもそも、口内炎と歯茎が痛くて、歯磨きもできず、ひどい場合には食事も摂れません。そして、歯磨きができてもできなくても、強い口臭を伴うことが多いです。
多くはこの時点で病院を受診し、診断は比較的容易です。時折、熱だけでまだ口内炎が目立たない時期に受診をして風邪と言われ、あとから口内炎や歯肉炎が出現して、診断が変わることもあります。
歯肉炎や口内炎は、長くても4-5日程度で治まり、そのころにはすっかり熱も下がっています。
稀に、髄膜炎を引き起こしたり、熱が長引くことがあり、注意が必要です。
感染は、ヘルペスウイルスの保菌者との接触により成立します。飛沫感染あるいは接触感染と言われています。
疲れたときに口内炎ができる体質の人は、ヘルペスを排菌している場合もありますので、赤ちゃんにチューをするとうつってしまう危険があります。
ヘルペスウイルスはどこにでも存在するウイルスであり、ほとんどの人が1-2歳までに感染してしまいますが、稀に少し大きくなってからも初感染を起こす場合があります。
ヘルペス性歯肉口内炎の治療
ヘルペス性歯肉口内炎と診断されれば、治療は内服薬と外用薬があります。
内服薬は、水ぼうそう(水痘)と同じお薬(アシクロビル)を、量を少し減らして内服します。内服後は比較的速やかに症状は消失しますが、別に診断が遅れて薬を飲むのが遅れたり、飲めなかったとしても、通常の免疫力を持つ人であれば、問題なく治癒します。
また、髄膜炎を発症した場合には、髄膜炎としての治療を行います。
ヘルペス性歯肉口内炎と見分けるべき病気
先述の水痘は、同じヘルペス属のウイルスにより発症する病気です。
水痘は口内炎を作ることはあまりなく、主に皮膚に水疱を伴う発疹が出るために、比較的鑑別は容易です。
また、手足口病はエンテロウイルスによる口腔内と手足に水疱を伴う発疹ができる病気(参照; エンテロウイルスの流行)ですが、手足の発疹が目立たない時期は、ヘルペス性歯肉炎との鑑別が必要になります。手足口病は、歯肉炎を伴うことは少なく、歯肉腫脹がある場合は、ヘルペス性のものと思っていいでしょう。稀に手足口病でもヘルペスウイルスが分離されるケースがあるようですが、ほとんどの場合は小児科医が診察すれば、両者の鑑別は容易です。
口の中を痛がる場合はどうしたらいいか
ヘルペス性歯肉口内炎で一番つらいのは、口の中の痛みです。口の中の痛みを少しでもやわらげつつ、脱水にならないように水分は与える必要があります。
牛乳系のものは、粘膜表面に被膜を作り、食物が直接染みにくくなるため、食事の最初に与えるのもいいです。また、当たり前ですが柑橘系やトマトなど、染みるものは避けましょう。水分を摂らない場合でも、氷にすると舐められることも多いので、OS-1などを凍らせて与えてみるものいいかもしれません。
また、熱のときに使う坐薬は、鎮痛薬にもなるので、食事の30分くらい前に入れてあげると、食事が摂れるようになるかもしれません。
どうしても水分が摂れない状態が1日以上続くと、脱水が進行してしまう場合もあります。少しずつでも、栄養バランスは関係なく、何かしらのカロリーをとれるように工夫することが大切です。