男性は女性より体が弱いって本当?
2018年の最新の平均寿命は、「83.93歳」となっており、男女で見ると、男性は「81.09歳」、女性は「87.26歳」と、女性のほうが、6歳以上も上回っています。
また、子育てをする際にも、「女の子は体が強いから育てやすい」とか、「男の子は病気がち」とか、昔からまことしやかに噂が絶えません。
実際はどうなのでしょうか?
死亡原因について
人間は死亡する原因としては、死亡する要因としては、遺伝的な要因、環境的な要因、文化的な要因とに分けられます。
一般的には、文明が未発達で、衛生環境が整わず感染症が蔓延したり、飢饉により餓死する可能性がある文明過程においては、死亡率は男性より女性が上回るとされています。男性は体力もあり感染症などにかかりにくいこと、またこのような状況下では女性は周産期の死亡リスクが高くなることも大きな理由として挙げられるでしょう。
ところが、文明が発達し衛生環境が整うに従い、感染症での死亡率は激減し、次第に女性の寿命が男性を上回るようになると言われています。
昔から「女子供は弱い」と言われていたのは、文明が発達途上であったときの名残かと思われます。
人口動態統計からみた男女差
よく言われるように、男女の出生率を比較してみると、実は男性のほうが女性の約1.05倍多く生まれていることが分かっています。
そして、最新の平成29年の人口動態統計を見てみると、全年齢での死亡率も、女性1に対して男性1.049と、男性のほうが多くなっています。
また、日本の乳児死亡率は現在1.9%(1000人に対して1.9人)、新生児に死亡率は0.9%となっています。この中で「周産期死亡」に限定して男女比をとると、男児の周産期死亡率は、女児の1.28倍にも上ります。
乳児死亡の原因別で見てみると、出産時の外傷による死亡は、女児で0ですが、男児では5となっています。これは、男児のほうが一般的に母体内で大きく育つために、出産期に何等かのトラブルとなることが多いのが主な理由だと思われます。また、周産期の呼吸障害、感染症などでの死因も男児のほうが女児より多くなっています。
これに対して、出血性疾患などの血液疾患や先天奇形による死亡は女児のほうが多くなっています。先天奇形による死亡が女児のほうが多い理由は明らかではありませんが、男児は先天奇形がある場合胎児死亡となり生まれてすらこられない、という説もあります。
また、乳幼児突然死症候群も男児のほうが2倍ちかく多い報告となっています。
さらに、事故死は男性が女性の1.6倍にも上り、自殺に至っては2倍以上、そしてついでに他殺も男性のほうが1.2倍以上も多い統計となっています。
男児は本当に弱い?
実際臨床をしていると、NICUで管理する赤ちゃんも、早産児や低出生体重児において、男児のほうが少し弱い印象があります。
それを裏付けるように、人口動態統計でも、男児のほうが、周産期の呼吸障害や感染症での死亡率が30%-40%も高いことが分かっています。
少し古い論文ですが、1989年に鹿児島で男女の出生率や死亡率を解析した論文がありました。(民族衛生第55巻第2号91~99(1989))この論文では、20年間に渡り男女の年齢別の死亡率を比較していますが、男児は女児に比べて一般に死亡率が高く、乳児では1.28倍、1歳児では1.11倍、2歳児では1.30倍、3歳児では1.39倍、4歳児では1.60倍の死亡率になっており、1歳児を除き、年齢が進むほど、男女間の死亡率の差は大きくなっていることが分かりました。男児の死亡率は、その世帯の所得と関連があったと書かれていますが、それ以外では、死亡率に関連する因子は見つからなかったとのことでした。
医療が発展すれば性差は縮まる
なぜ、男児のほうが事故死だけでなく病気による死亡率が高いのか、はっきりとした理由は分かっていません。ただ、出生率が男児のほうが多いように遺伝子としてプログラミングされている、と考えると、何らかの遺伝子レベルでの制御があるように思えてなりません。
男性の性染色体はXY、女性はXXであり、男性だけがもつY染色体はX染色体と比較して格段に小さく、遺伝情報も(現時点で分かる範囲では)少ないと言われているため、そのあたりになんらかのヒントがあるのかもしれません。
ただし、現在主な乳幼児死亡の原因となっている呼吸障害や感染症などは、この先医療がもっと発展していくにつれて、さらに減少していくことが予想されますので、この性差も次第になくなっていくのかもしれません。
あとは、男子の特性として、事故関連死を減らせるかどうかだと思います。