小児救急での初期対応について
小児科医が救急で子供を診るとき、どんなところに注意しているのでしょうか?軽症/重症を見分けるコツなどをご紹介いたします。
初期評価
まずは救急車を降りたとき、または診察室に入ってきたとき、ファーストタッチ(はじめて接触したとき)に、全体を見まわし、簡単に初期評価を行っています。
子供の評価方法として最もよく用いられるのが、小児のPATトライアングルと言われる、以下の図です。PATとは、Pediatric(小児) Appearance(見た目) Triangle(三角)の略語です。
①見かけ
意識状態はどうか、全身に力は適度に入っているか、脱力あるいは硬直していないか、泣き叫んでいたり朦朧としていないか、年齢相当の言葉の理解はしていそうか ということを評価します。
②呼吸仕事量
鼻翼呼吸、陥没呼吸、シーソー呼吸といった、努力呼吸所見はあるか、または、呻吟(しんぎん;うーうーとしんどくてうなること)、喘鳴(喘息などでゼイゼイいうこと)があるかどうかを評価します。
③循環・皮膚色
皮膚の色は蒼白だったりまだらだったり、チアノーゼが出ていないかどうか、出血など外傷がないかどうかを評価します。
これらの評価は、だいたい数秒で行われています。
一次評価
大人も子供も共通ですが、ABCDEという共通言語で評価をします。
①A;Airway(気道)
気道が開通しているか。窒息などの症状がないか。
②B;Breathing(呼吸)
呼吸数や、さきほども出てきた努力呼吸をさらに詳しくみていきます。また、呼吸音の異常や左右差がないかどうか、聴診を行います。さらに、パルスオキシメーターを使って、体の中の酸素の値を測定します。
呼吸数や後に出てくる心拍数は、大人と違い子供では年齢によって正常値が異なります。また、泣いているときや体温が高いときなどは、必然的に評価しづらくなります。うまくあやしたり、抱っこしてもらっている間にすばやく測定したり、少し寝入ったときを狙って診察したり、といった工夫が必要になります。
③C;Circulation(循環)
初期評価でした皮膚色から発展し、指先や足先までの温度や冷感、さらに心拍数とリズム、そして血圧を評価します。また、爪を押さえてから、血液が再充満するまでの時間(毛細血管再充満時間)を見て、これが2秒以上に延長しているようなら、循環不全を疑います。
④D;Disability(神経学的評価)
意識の状態をさらに詳しく分類します。子供の場合は、意思疎通が取れるか、場所や名前は言えるか、さらに小さい場合は、保護者と医療者を見分けられるか、状況を判断して啼泣できるかどうか、などです。
⑤E;Exposure(全身観察)
その他、外傷や発熱など、診察上問題となる点はないかの評価です。
一次評価までが、だいたい5-10分で行われます。そのうえで、血液検査やエコー、レントゲンやCTといった、各種検査の検討にうつります。
二次評価
ここからは、病態や診断に迫っていく診察となります。一次評価で問題があれば、生命に関わる場合もあるのでまずその対応を行い、病気の診断は後回しになります。
二次評価以降は、一次評価で引っかかってきた項目の原因はなにかを探っていくとともに、病歴をしっかり聴取し、その症例ごとに必要な対応をしていくことになります。
一次評価、二次評価でひっかかる部分があれば、ほとんどの医師は「これはやばい」と感づくことができます。その勘のもととなる症状を言語化しているのが、このPATや一次評価の項目です。他の医療者があとからカルテを見ても状況を把握できるようにしていると言えます。
以前、痙攣で救急搬送!そのとき救急室で行われていること という記事も書いているので参考にしてください。