小児の誤飲・誤嚥事故
小さな子どもはなんでも口に入れてしまい、それが誤って気管に入ってしまって窒息を起こすことがあります。また、毒物となりえるものも知らずに飲みこんでしまう場合があります。
異物が誤って食道以降に飲みこまれたことを誤飲、誤って気道に行ってしまったものを誤嚥といいます。
こうした事故の発症年齢は、0-1歳台に集中しています。特に、6か月ごろから急激に増え、9か月ごろがピークです。ハイハイで動き回り、静かにしていると思ったらイタズラをしていた、という経験は誰にもあると思います。そして特にタバコは事故全体の7割を占めます。2歳からは医薬品が多く、次いでビー玉などの玩具やコインなどが原因となります。4歳以降になると、誤嚥・誤飲事故は激減します。
小児の誤飲/誤嚥事故について、まとめました。
誤飲事故について
誤飲事故の原因
誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が最も多く、続いて「医薬品・医薬部外品」、「金属製品」、「玩具」、「硬貨」など、そして「プラスチック製品」、「化粧品」、「洗剤・洗浄剤」、「乾燥剤」、「電池」などがよく報告されています。
タバコの誤嚥は、生後6か月から1歳過ぎまでに集中しており、放置していたタバコそのものを食べてしまう事例が後を絶ちません。昔は胃洗浄が行われていましたが、タバコに含まれるニコチンの作用により、致死量のタバコを飲みこんでそのまま腸まで流れることはないと言われており、厳重な経過観察は必要ですが、特に処置は必要ありません。
医薬品で問題になるのが睡眠剤や精神安定剤などです。
誤飲事故の対処
たばこ
前述のように、たばこをそのまま誤飲した場合は、致死量に至ることはまずありません(乳児でのたばこの致死量は1本程度と言われています)。ニコチンには嘔吐を促す作用があり、また体内での吸収も遅いためです。ただし、コチン中毒になる可能性はあります。誤飲に気づいたらなるべく早く口の中から取り除きましょう。吐かせようとすると危険なので、速やかに病院を受診しましょう。場合によっては、胃洗浄や活性炭の投与が必要な場合もあります。
また、たばこは水分に溶けやすいため、飲料の缶などにタバコを捨て、その液を飲んでしまうと、容易に致死量のニコチンが体内に入ってしまうため、子供がいる家庭では絶対にしないようにしましょう。
急性ニコチン中毒の症状は、吐き気、嘔吐、唾液が増える、腹痛、興奮、手足の震え、冷や汗などです。
だいたい4-6時間経過して症状がなければまず大丈夫です。
医薬品やそのほかの薬品など
誤飲したものによって対応が変わります。ひとつひとつ覚えるのは難しいので、小児救急電話相談#8000あるいは、日本中毒情報センター(大阪:072-727-2499、つくば;029-852-9999 情報提供料は無料、通話料のみ)で対処方法を聞いてください。
その際に伝えてほしい情報は以下の通りです。
・誤飲した医薬品の正確な名称
・誤飲してしまった量と、摂取した状況
・子供の現在の状態(意識状態、機嫌など)
電池
乾電池は誤飲しても問題ないことが多いです。胃内にさえ落ちていればそのまま進んで、問題なく腸を通って便とともに排出されます。しかし、ボタン電池は食道でとどまることもあり、その場合は食道が破れてしまう危険性もあるため、緊急に摘出する必要があります。胃内に落ちていても、そこで腐食し、胃に穴があく場合があります。そのため、マグネットカテーテルという、磁石のついた長い管を入れてくっつかせて摘出する場合がほとんどです。
クリップや針など、鋭利なもの
赤ちゃんが鋭利なものを飲みこんでしまった場合、口の中には傷が付きやすいですが、意外に腸管は無事なことが知られています。ただし、どこかでとどまってしまった場合は危険なので、レントゲンでうつるものであれば、毎日進みを確認することがあります。
誤嚥事故について
誤嚥事故の原因
誤嚥事故で一番多い原因はピーナッツなどの「ナッツ類」です。これらは口の中で容易に滑り、誤って気管に落ち込んでしまいます。人間の気管支には左右差があり、乳児で直径32ミリ、3歳児で39ミリ以上のものは誤嚥の可能性があり、注意が必要です。
おもちゃ協会により、STマークがついているものは、年齢による誤嚥の可能性を最小限にするために作られ、認可されたものです。できれば低年齢のときはとくにSTマークがついているおもちゃを選びましょう。
ただし、誤嚥のほとんどは、「思いもかけない」ものを飲みこんでしまっていることが多いため、普段からなるべく子供の手の届くところに誤嚥の可能性があるものはおかないようにしてください。(といってもなかなか難しいと思いますが)
また、プチトマトや巨峰での誤嚥事故の報告もあります。こんにゃくゼリーで問題になったことも記憶に新しいかと思います。こうした、弾力のある丸いものが、気道をすっぽりふさいでしまった場合は、肺に急激な急陰圧がかかり、遅発性の呼吸障害が起こる場合があります。
誤嚥したときの対処
窒息したときの特徴的な動きとして、首のあたりを苦しそうに掻きむしる動作をしている場合が多いです。その場合は、実際の誤嚥現場を見ていなくても、そばに居る人が早急に対応する必要があります。
意識がある場合
背中を思い切り連続してたたきます
乳児の場合は、大人の腕をおなか側にまわしてうつ伏せで抱っこし、頭を少し下に下げた体勢で、背中を思いっきり連続してたたきます。あるいは、仰向けにして頭を少し下に下げた状態で抱っこし、胸の骨の真下を、頭の方向に向かって強く押します。
1歳以上であれば、ハイムリック法を行います。
後ろから子供を抱きかかえるようにして両腕を回し、片方の手で拳を握り、胸の骨の真下を上に突き上げます。
これらは、意識がなくなるまでは続けてよいですが、数回やってダメな場合は、ひとまず救急車を呼んでから、続行してください。
意識がない場合
心肺蘇生法を行います。速やかに救急車を呼びましょう。呼んで待っている間も、心肺蘇生を続けましょう。心肺蘇生法についてはこちら子どもが溺れたときの対応
呼吸はできているが、咳込みなどがある場合
豆などの小さいものは気管を過ぎて気管支にはまり込んでしまう場合もあります。咳がでる場合がほとんどですが、咳反射がでないこともあります。気管支にはまり込んでしまった場合は自力での排出が難しい場合もあり、炎症を起こして肺炎になることもあります。この場合は気管支鏡などでの摘出が必要になります。
また、体動などにより異物の位置が変わり、さらにはまり込んで呼吸困難を起こすこともあるので、速やかに病院を受診しましょう。救急車を呼んでも構いません。
異物誤飲/誤嚥事故が起こらないのが一番ですが、何かあったときのために、日ごろから行動できるようにしておきましょう。