風邪に負けない体づくりの方法
規則正しい生活、適度な運動、栄養価の高い食事・・・風邪に負けない体をつくるために、まず筆頭にあがる事項ですが、これがなかなか実践が難しいです。今回は、忙しい現代人、現代の子どもたちのために、こうした基本的なこと以外に、日々のちょっとした工夫でできる、免疫力アップの方法を考えてみたいと思います。
小児科医は風邪をひかない
小児科医は毎日たくさんの風邪の患者を診ます。それでも病気にならないのはなぜでしょうか?風邪には200種類以上の原因ウイルスがいることが分かっており、それらに毎日少しずつ触れ合っています。そのために、毎日生ワクチンを接種しているような効果が得られます。
実際、医師になってはじめの冬場は、みんな決まって風邪を引きます。少しずつ風邪をひきつつ、免疫力がつき、強くなっていっているというのが本当のところです。保育士さんなども同様ですね。
それでも、やはり、毎日実践していることがあります。
なんといっても、手洗い、うがい!
公衆衛生学において、感染を防ぐ最大かつ最高の方法は、手洗いとうがいです。要は、病気の原因となるウイルスや細菌などの病原体を、なるべく体から排除することが重要です。
人間の皮膚の表面には、様々なウイルスや細菌がついており、そのほとんどはただちに病気の原因にはなりません。何らかのタイミングで免疫力が下がってしまったり、病原性が強いものがつき、体内に入ってしまった場合、病気を引き起こしてしまいます。
風邪ウイルスなどは、人間の鼻は喉に住みつき、炎症を起こすことで、くしゃみや咳が誘発され、そのしぶきに乗って新たな宿主を探すという方法をとって、増殖していきます。人間は集団生活をしているため、保育園などの環境はウイルスたちにとってはまたとない楽園です。集団にいるということは、常にウイルスに狙われているということなので、しっかり排除する必要があります。ウイルスの種類によっては、生体外で何日も生存するものもあり、机やドアノブなどの生活環境に潜んで次の宿主を待っているので、いかにそれらを体に入れないようにするかが肝なのです。
手洗い
手洗いといっても、シャカシャカと数秒水を流すだけでは何の意味もありません。まず流水でしっかり汚れを落としてから、しっかり泡立てた石鹸の泡で、手のひら、手の甲、指の間、爪の先、親指の付け根、そして手首までしっかり洗います(ただしい手洗いのススメは他サイトを参照ください)。
せっかく洗った手を拭くためのタオルが不潔だと、洗った意味がなくなります。清潔な、乾燥したタオルでしっかり水分を拭きとりましょう。
ジェットタオルは不衛生!
最近どこにでも設置してあるジェットタオルですが、手洗いが不十分な場合は、周りに病原体をまき散らしてしまいます。一番衛生的なのは紙タオルと言われていましたが、ゴミ箱が不衛生になること、また環境面からもコストがかかります。個人のハンカチで拭くようにするのが一番衛生的で信頼できます。
うがい
うがいは、喉の表面でトラップされた病原体を外に出す役割をします。もともと人間の喉には、様々な細菌が共存しており、消毒液を使っても、全部排除することはできず、またその必要もありません。あくまで、外部から侵入しようとする病原体を洗い流す目的なので、水だけのうがいでも十分効果があります。
うがいのできない年齢の子どもは、飲み物を飲むことによって喉を潤してもらうだけでも効果があります。風邪の病原体は、飲みこんでしまえば胃酸で不活性化されてしまうものもあります。胃腸炎のウイルスはこれに当てはまりませんが。
喉を乾燥から守る
先ほども書きましたが、喉が乾燥すると、喉の表面に分泌されているIgAの働きが鈍り、病原体が侵入しやすくなrます。寝ているときにいびきをかいていて、朝起きてみると喉がイガイガ、そのまま風邪を引いてしまうという経験はありませんか?口呼吸になると、口腔内が乾燥するので、免疫力が下がってしまうからなんです。鼻づまりや肥満も口呼吸の原因になります。しっかり鼻水の処理をする(参照 鼻水吸引器のススメ)、マスクをする、ハチミツを摂取する(参照 子供の咳にハチミツが有効!?)というのも、咽頭の乾燥を改善する良い方法です。
あいうべ体操
口呼吸が習慣になっている人のために、「あいうべ体操」というものがあります。
大きな口をあけて「あ」、次に口を思い切り横にひらき「い」、口を思い切り前に付きだし「う」、最後に舌をなるべく長く出して「べ」とする体操です。これをゆっくり1日10セットするだけで、顔面の筋肉が鍛えられ、口呼吸から鼻呼吸に変われるようになります。お顔のリフトアップや美容にも効果的。家族みんなでやれば、みんなで笑いあえて、効果もさらにアップするでしょう。
抗生剤や解熱剤の乱用を避ける
しつこく書いていますが、風邪には抗生剤は無効です。それどころか、弊害の方が多いです。(参照 風邪と抗生剤について再考する、風邪に対して複数の抗生剤投与がされていた症例、抗生剤投与の功罪、抗生剤とアレルギー)腸内細菌のバランスが崩れれば、体の免疫機構のバランスも崩れてしまいます。一旦抗生剤を飲むと、腸内細菌がもとの状態に戻るまでに1か月以上かかると言われており、抗生剤の乱用は自身の耐性菌の増加にもつながります。(参照 薬剤耐性菌って何ですか?)自分の自然治癒力を信じて、しっかり風邪を引ききってしまうのも重要です。
また、解熱剤を乱用することで、自分の免疫力をしっかり発揮できないこともあります。生体は外敵が侵入すると、サイトカインという物質がたくさん分泌され、体の体温を上げ、活性化して免疫力をアップさせます。熱のせいで寝られないとか頭が痛すぎてごはんが食べられないなど、マイナス面が目立つ場合は、使用を躊躇する必要は全くありませんが、少しの熱だからといって、解熱剤で熱を下げる必要はありません。(参照 解熱剤の使い方)
漢方薬
場合によっては、漢方薬が有効なときがあります。例えば、老人などで、「虚証」と言われる状態のときは、「補中益気湯」と言われるものが有効である場合があります。子どもではあまり虚証の状態にはなりにくいですが、おとなしく、食が細く、元気がない子どもは虚証の場合もあります。
また、反復性中耳炎には「十全大補湯」が有効との報告もあります。中耳炎のガイドラインにも載っています。
風邪の引きはじめ、ゾクゾクする場合には「葛根湯」が有効です。葛根湯は麻黄、葛や生姜などの成分が入っており、全身の血流をよくして体温を上げて免疫力をアップさせる効果があります。インフルエンザの初期には麻黄湯が有効とのエビデンスもあります。
漢方薬は子どもには飲みにくい場合もありますが、体質に合えば意外と飲めるものです。飲み方のコツなどはこちらを参照してください。(参照 子供に楽しく美味しく内服してもらう方法♪)
最終的には体を休めるのは一番。
それでも風邪を引いてしまった場合は、まずはいろいろなことを諦めて、体を休めるのが一番の近道です。子どもも、風邪気味でも無理して保育園などに登園していると、かえって治りが悪くなったりすることはよくあります。体が休めのサインを出しているときは、できるだけ素直にそれに従いましょう。
特に子どもは、咳や鼻水のお症状で夜間の眠りが浅くなります。前述のようにできうる限りしっかり鼻水や咳のケアをして、細切れでもいいのでぐっと眠れるようにサポートしてあげましょう。
また、子どもの場合は、いくら安静にといっても、自宅で走り回ってしまうこともあると思いますが、元気がある証拠なので、特に問題ありません。無理に寝かせておく必要もありません。もうすぐ治ってくるサインです。