ステロイドの塗り薬について

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ステロイドって怖い薬?

1990年代、マスコミの報道から火が付いて、ステロイドは怖い薬だ!という報道が多くなされ、「ステロイドって怖いお薬なんだよね」というイメージがついてしまい、いまだにそのイメージだけが先行してしまっている場面によく遭遇します。実際に何が怖いですか?とお聞きすると、びっくりするような誤解があったりすることもあります。

このマスコミの報道ですが、医師からの指示もなく、2年間顔面にやや強いクラスのステロイド薬を塗り続け、副作用が出たということで、医師を訴えた患者さんがいたことに起因します。そして、ニュースス○―ションという報道番組で、一週間ステロイドバッシングの特集があり、これが実際にステロイド恐怖症に火をつけた報道となりました。

今回は、ステロイド外用薬の効能と副作用について、書いていきたいと思います。

ステロイドとは

副腎といわれる、腎臓のそばにある臓器で作られるホルモンの一種です。ステロイドは様々な作用を持っています。簡単に言えば、生体が元気になるホルモンで、血糖値をあげたり、水分を保持したり、気分を高ぶらせたり、スポーツ選手のドーピングに使われるのもステロイド剤です。このステロイドホルモンを科学的に合成したものがステロイド剤になります。

ステロイド剤には、点滴、内服、外用、吸入、点眼、点鼻など、さまざまな用途でお薬が開発されています。それぞれのお薬は、その目的に沿って、投与した経路で効果を発揮するように作られています。例えば、点滴や内服のお薬は全身に作用しますが、外用は皮膚のみ、吸入は肺と気道、点眼は眼、点鼻は鼻といった局所のみに効くように作られています。

ステロイド薬の作用

抗炎症作用

ステロイド薬の主な作用は、炎症を抑える作用です。アトピーや、それに準じる皮膚の炎症は、いわば「火事で火がもえさかっている状態」です。そこに、ヒルドイドやワセリン(プロぺト)などの保湿剤を塗ったところで、火を消すことはできません。炎症が弱ければ、時間が経てば自然と鎮火しますが、大抵かゆみを伴っているため、掻把(ひっかく)という刺激が加わり、火事は広がってしまう傾向が強くなります。

火事の原因は食物アレルギーだったり、動物アレルギーだったり、遺伝的な要因やストレスなど様々なので(参照:アトピー性皮膚炎の最新治療、原因を完全に取り除くのは困難であり、ある程度体質と思って長期的に付き合っていかなければいけません。ステロイド薬はあくまで対症療法ですので、アトピーのような体質を根本から治すものではありませんが、皮膚の慢性的な炎症を抑えていくことで、炎症(延焼)しにくい下地を作ることにもつながります。他の代替的な治療を模索しているうちにも、火事が広がっていきますので、とりあえず鎮火させるという意味合いでもステロイド薬の抗炎症作用をうまく利用することが重要と考えられます。

免疫抑制作用

ステロイドのもう一つの重要な作用が、免疫抑制作用です。

通常の皮膚は、一番外側の角層がしっかりバリア機能を果たしており、細菌などの外敵を寄せ付けないように守っています。ところが、この角層がなんらかの原因で乱れると、乱れた角層の隙間から外からのアレルゲンなどが侵入し、炎症を起こす細胞が集まって炎症(火事)が起きてしまいます。火事が広がると、炎症を起こす細胞は自分の住処も燃やしてしまうため、この炎症細胞の働きを鎮めなくてはいけません。そうした作用を期待して、ステロイド外用薬が使われます。ただし、この免疫抑制作用が諸刃の剣となります。

ステロイド薬の副作用

易感染性

前述した免疫抑制作用によるものです。外用剤においては、体全体の免疫抑制作用が問題になることはなく、塗ったその場所の感染のリスクが高まります。つまり、細菌感染症であるとびひや、ウイルス感染症である水いぼやヘルペス、カビの感染などです。これらの感染は、皮膚バリアの乱れている患者さんにおいては、通常の人よりももともとリスクが高くなります。ステロイドを使うことで炎症を押さえますが、皮膚バリアの修復が間に合わなければ、細菌の侵入をたやすくさせてしまうため、感染兆候には十分注意が必要です。

酒さ性皮膚炎

健常な皮膚に長期間使用すると、表皮が萎縮し皮下の毛細血管が拡張するため、お酒を飲んだあとの赤ら顔のようになるため「酒さ性皮膚炎」と呼ばれます。これは、マスコミの報道の原因となった副作用ですが、ある程度しっかりした知識をもって外用剤を使えば、最小限に抑えることができます。

そのほか、よく副作用と誤解されることがら

リバウンドがある

ある程度「年季の入った」皮膚炎の場合、お薬を塗って一時的に効いても、お薬をパタっとやめてしまったり体調などの悪化や汗などの状況により再燃することがあります。山火事も、いったん鎮火したと見せかけてもくすぶっている場合があり、放水をやめるとすぐにまた再燃してしまいます。アトピー性皮膚炎とはそういうものなので、しょうがないのですが、一旦この「リバウンド」のような状況を経験してしまった人は、ステロイドの作用によりまた再燃してしまったと思ってしまうことがよくあります。

こういった場合は、外用薬を少し塗って、すぐやめるのではなく、すこしずつやめていく、という方法がとられます。例えば、毎日2回塗っていたものを1回に減らして一か月、そしてさらに2日に1回に減らして一か月、といった具合にです。そうすることで、再燃する頻度が抑えられ、結局はステロイド薬の総投与量を抑えられるという研究結果がでています。

色素沈着を起こすのでは?

皮膚に火事が起こってしまった場合、皮膚が赤くなりますが、鎮火してからもその色は色素沈着として残ります。虫刺されで掻き壊したときに少しあとになるのと一緒ですし、はしかなどの皮疹で皮膚に炎症が起こってしまった場合も同様です。これは、特に低年齢の子どもであれば、適切に治療して炎症を最小限にとどめてやることで徐々に改善していきますが、炎症が繰り返し起こる場合には、完全に元の色に戻るまでには時間がかかります。色素沈着はステロイドの副作用ではなくて、炎症があった燃えあとなのです。

皮膚が分厚くなると聞きました。

皮膚の炎症が繰り返し起こると、だんだん皮膚がブツブツと分厚くなっていきます。これも繰り返す炎症によって起こるものであり、ステロイドの副作用ではありません。

結局は症状を取っているだけで根本からは治せないんでしょ?

結論から言えばその通りです。アトピー性皮膚炎の最新治療でも述べた通り、火事の原因は体の中や遺伝や外からの要因など様々であり、多くの場合は複数のことがらが混ざり合っています。なので、根本から治すのはいきなりは無理です。でも、火事により炎症を抑えてあげることで、火事になりにくいお肌に変えていくことはできます。火事がくすぶった状態をなるべく押さえてあげることで、アトピーに引き続くアレルギーマーチを押さえていくことができると考えられます。

ステロイド薬を上手に使っていくことが重要

ステロイド薬は、他のお薬同様、使うことにより副作用はゼロにはできませんが、副作用の可能性を理解し、適切に使用することでその可能性を最小限に抑えることができます。外用ステロイド剤は、局所に効いて副作用を最小限におさめるために工夫され開発されていますので、必要以上に恐れる必要はありません。

そもそも、薬自体、副作用があるものですので、その点は他のお薬と何ら変わりません。

できるだけ薬を使わないでいられるに越したことはありませんが、どうしても頼らざるを得ない場合は、しっかりとメリット・デメリットを理解したうえで、賢く使いましょう。

かかりつけの医師も大事

また、ステロイド剤を出しておいて、再診の指示を出さずにほったらかし、というのは医師の怠慢です。というか、軽症の場合は問題ありませんが、しっかり指導をしなければいけない重症な皮膚症状のある人ほど、こまめに再診して外用指導を行わなければいけません。皮膚症状が良くならないのは、薬ではなく、出しっぱなしの医者のずさんな指導方法である場合もあります。

どこに、どれくらいの頻度で、具体的にどれくらいの量を塗ればいいのか。どのような作用が期待できるか。副作用はどのようなものか。どういう場合に再診が必要なのか。外用以外のスキンケアでは何に気を付けたらいいのか。こういったことを説明するのは時間がかかるし、一人一人にそこまでかかっていられない現状もあるため、難しいですが、しっかり説明してもらうのが理想です。

そもそも乳幼児の慢性の皮膚炎症はアトピーであるないに関わらず、原因の特定や除去が難しく、ひとまず対症療法を続けてスキンケアを積み重ねていくことが重要な病気です(参照赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の診断ってどうするの?)。同じように外用をしているつもりでも、体調や環境によってどうしても悪化することは免れません。だからこそ、信頼できる医師を見つけて、分からないことはなんでも聞いて、しっかり信頼関係を築くことが重要です。

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