風邪と抗生剤について再考する

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風邪には抗生剤は無効である

以前は「抗生剤もらえないんですか」という質問を外来でよく受けましたが、ここ10年ほどでお母さんたちもだいぶ変わりました。「ウイルス性のものですね」というと、「じゃあ、特効薬はないですよね。熱が下がるまで待つしかないですよね」と言ってくれるようになりました。

実際の外来での抗生剤処方の割合は?

個人差はあると思いますが、私の場合で見てみると、外来100人あたり、内服の抗生剤を処方するのはせいぜい3人程度です。そして、診断名は「溶連菌」か「中等症以上の中耳炎」か「とびひ」が多くを占めます。特に、アトピーの子をよく見ているので、とびひの率が他の医師より高いと思います。

私の周りを見ていても、同僚はだいたい同じようなものです。

そして、風邪をこじらせて肺炎で入院するのはだいたい外来1000人あたり1、2人くらいのものです。

「小児科通ってたのに、いつの間にか肺炎になっていた!」

こういう声を聞くことがあります。「ずっとかかっていたのに、お薬は去痰薬だけ、そして次に行ったら肺炎と言われた。もっと早く抗生剤飲んでたらよかったんじゃないの??」

最初から激烈な肺炎になる場合は少なくて、はじめはウイルス感染による風邪症状から始まり、次第に咳がひどくなり、睡眠時間や食事量が減ってくる。炎症は上気道から下気道、すなわち気管支、肺に進みます。たいていの場合はウイルス性の肺炎ですが、体力がなくなって免疫力が落ちたときに炎症部位で細菌が暴れだし、「二次感染」を起こすことがあります。せっかく小児科に通っていたのに肺炎になった!という方は、不幸にもウイルスが肺まで広がってしまったか、ウイルス肺炎になった挙句に子どもさんの体力が持たずに、細菌が増えてしまった状況なのです。

この「細菌」は子どもののどの奥や鼻に常に生息している常在菌で、元気なときは悪さをしませんが、体の抵抗力が弱まるととたんに増殖して、症状を出すようになります。

「細菌」は常在しているので、排除することは難しく、「あらかじめ」の抗生剤投与は無効です。病気の期間中、ずっと抗生剤を飲んでおくこともできません。

実際、抗生剤の予防的投与は無効との論文もいくつも出ていますし、あらかじめ抗生剤を飲んでいても肺炎の重症化を抑えることはできません。風邪のあとに肺炎になる確率は1%以下で、その確率は抗生剤を飲んでも飲まなくても変わりません。

なので、「風邪(=上気道炎)」と診断している間は、去痰薬や場合によっては鎮咳薬を処方し、なるべく体を休めて免疫力を下げないようにする「対症療法」がメインになります。

もっと言えば、この「風邪」の期間は、急いで受診する必要はなく、長時間救急外来で待ったり、他のウイルスもうようよしているような小児科外来に来るくらいなら、家でゆっくり寝ていたほうがいいと思われる方も実はたくさんいるのが事実です。

小児科医は「重症を見分ける」ことが重要

とはいえ、肺炎は急になるわけではなくて、どこかで兆候があるはずです。軽症の肺炎であれば、初期の段階で適切に判断し、細菌感染があっても早めに抗生剤を内服することによって、悪化を防ぐことができます。

小児科医の診察は、この「重症化する兆候」を見分けることが目的です。

重症化する兆候は以下のようなものです。

・熱が4-5日以上続く
・遊ばない、食事量がいつもの半分以下、水分を摂らない
・息苦しそう
・顔色が悪い、チアノーゼ、機嫌がすこぶる悪い

子供はとても正直なので、食べなくなる、あるいは遊ばなくなってきたら注意、と説明しています。

そして、重症化しそうだな、と思ったら、しっかり血液検査、ウイルスなどの迅速検査、画像検査、レントゲンで熱の原因となる場所、病原体を診断することが重要です。
例えば、アデノウイルスやインフルエンザウイルスによる肺炎だったら、いくら重症でも抗生剤は効きません。溶連菌であれば、軽症そうでも抗菌薬治療が推奨されます。
中耳炎の存在があれば、ウイルス性肺炎でも抗生剤治療により病態の改善が得られます。

その都度しっかりと病因と熱の原因を把握し、抗生剤を必要最小限に使用することが重要と考えます。

抗生剤が乱用される理由

保護者からすれば、治るものならなるべく早く、子供の今の苦しみを救えるのなら抗生剤でもなんでも飲ませてあげたい、と思うものではないでしょうか。そして一見、抗生剤を飲んでもその副作用は下痢くらいしか見えません。過去の記事(小児科救急外来とお薬依存症抗生剤投与の功罪)にもしているように、将来のアレルギー発症のリスク(抗生剤とアレルギー)や、腸内細菌の変化などは、そのときにはわからないし、他にももちろん関与する因子があるので、抗生剤投与だけの責任ともならないため、「念のために」と処方される場合も少なくありません。後に説明する耐性菌の問題も、我が子の今の病状に直結するわけではないので、知ったこっちゃない、と思ってしまいますよね。

医師のほうも、「じゃあ念のため抗生剤だしときますね」としておくと、後から悪化したとしても「あれから悪くなりました。もっと早くにお薬だしといてもらえればよかったのに!」と言われなくてすむし、抗生剤は風邪に無効だ云々の説明をせずに、楽に診療ができます。しかも、そのほうが診療費も儲かります。

そして、お薬をもらえるところについ患者さんも集まってしまう傾向にあります。抗生剤を飲ませたタイミングが、自然解熱するタイミングだったとしても、「処方されたお薬が効いた!」と思えてしまうからです。

こうして、不要な抗菌薬が乱用される地盤が出来上がっているのだろうと思います。

予防接種の効果は大きい!

肺炎球菌やヒブのワクチンが普及して、定期接種化されたことで、これらによる重症な感染症が激減しました。本当に、ここ10年で小児科医の仕事は減ったし、このままではいつか廃業するのではないかとすら思います。(いや、それは言い過ぎか)

しっかり定期予防接種している場合は、重症の肺炎にもなりにくいです。実際これらのワクチンが定期化されてから、重症肺炎は1/10になったとも言われています。

逆に、予防接種をしていない、と聞くと、いろいろと怖い病気が思い浮かび、過剰治療をされてしまうかもしれません。

肺炎は、抗生剤の内服では予防はできず、予防接種で予防することが大事です。

軽症の場合に抗生剤をどのように使うのか

実際にたくさんの子どもたちを見ていて、「軽症だけど、きっとこれは抗生剤の力を借りたら早く熱が下がるだろうな」という症例に遭遇することはあります。あくまで持論ですが、きっとその子どもの免疫と、二次感染を起こそうとする細菌がせめぎ合っているときです。

本来ならは、その子どもの免疫力を信じて、上記の重症化兆候が出てこないうちは、様子を見てあげるのが一番いいのだと思います。そのほうが、きっと次に細菌が体に入ってきたときも、自分の力で撃退できるようになるんだと思います。ただ、仕事や家庭の事情もあり、そうも言っていられません。私自身も、自分の子どもに抗生剤を使うかどうか、迷うこともありました。

やはりそういうときには、もう一度、中耳炎や副鼻腔炎はないか、他の熱源はないか、しっかり診察しなおすことが基本だと思います。そのうえで、抗生剤を使用するほうが、デメリットを上回ると判断される場合は、躊躇なくしっかりと使用するべきだと思います。中途半端に3日だけ、などという飲ませ方をすると、耐性菌も誘導するため一番タチが悪いです。

そして、有効であればいつまでに解熱すると考えられるか、また次の受診の目安などをはっきり説明して、抗生剤投与後の状態を再評価をすることが重要です。

実際自分の経験ですが、自分の子どもで、熱と咳と鼻水がずっとあり、明日には熱が下がるだろう、と毎日見ていたけど熱が下がらず、結局10日間熱が続きました。熱が下がるとある程度は元気だし、重症化の兆候はないので様子は見ていましたが、やはり熱が上がったり下がったりで日に日に疲れていくのが分かりました。中耳炎もありましたが、熱源にはならなさそうでした。10日経って、やっぱり軽症中耳炎をターゲットに抗生剤を投与したところ、その翌日にはすっかり解熱して、咳やら鼻水も一気に治りました。きっと体のいろいろなところでせめぎ合っていて、あと一押しの抗生剤で快方に向かったんだと思っています。もう少し待てればきっと治っていたのですが、そのときの私にとっては限界でした。

風邪なので抗生剤を、と画一的な処方をする医者は、医療の最新知識をアップデートできていない医者です。ただし、抗生剤が必要な場合ももちろんあり、しっかりとした診察を受け、診断をしてもらう必要があります。そのお薬は本当に必要なのか、診断は信頼に足るべきものなのか、保護者の方も、ただ受け身で投薬を受けるのではなく、しっかり診断と目的を聞いたうえで、大事な子どもたちの治療を選択しましょう。

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