抗生剤投与の功罪

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抗生剤の歴史

抗生剤は細菌をやっつけるために必要なお薬です。1920年代にペニシリンが発見され、1940年代に実用化されてから、ずいぶんとたくさんの抗生剤が開発されました。まだ、公衆衛生がしっかり整備されていなかった時代は、抗生剤でたくさんの命が救われました。そして、薬価も安く、味もおいしく、簡単に処方できるようになりました。

ところが、「熱が出ているから」「喉が赤いから」、そして「心配だから念のために」と、なにかと理由をつけて、医者の安心のために不要な抗菌薬投与がされるようになってしまいました。ここにきて、安易な抗生剤投与が害になることも広く知られるようになり、注意喚起がなされるようになりました。

今回は、抗生剤投与が害になったケースを2例ご紹介します。




症例⓵
10か月の女の子。
2日前から発熱があり受診。比較的元気であったが、鼻水や咳などの感冒症状はなかった。今日からややぐったりしているために受診。
2週間前に咽頭炎と言われ抗生剤を3日間飲んだ。

診察すると、のども赤くない。咳・鼻は確かにない。おなかの所見もない。
でも、ぐったり。熱は39℃。

血液検査で、炎症反応高値、白血球高値。
レントゲンで肺炎なし。
尿検査で膿尿あり、細菌3+

 診断:尿路感染でした

さらに調べてみると、尿路に異常あり。さらにさらに尿培養から検出された菌は多剤耐性菌(いろんな抗生剤が効きにくいタイプの細菌)であった。

よく聞くと、生後数か月ごろから、1か月に1回は熱をだし、そのたびに抗生剤をもらっていたそう。

おそらくは、そのうちの大部分は尿路異常による尿路感染だった。そして、中途半端な治療となって再発して、を繰り返し、そのうちに耐性菌が生えてしまったというストーリーと思われました。

症例②
3歳男の子。
けいれんで救急搬送。
数日前から発熱あり、咳や鼻水もあったとのこと。

小児科ではけいれんはよく見るので、いつもの熱性けいれんかな、という印象でしたが、どうにもけいれんが止まりません。血液検査で低血糖あり。脳波にも異常があり、急性脳症と診断。けいれんが止まったあとも意識障害が続きしました。

よくよく聞くと、たびたび抗生剤を頻用されており、このときも前日から抗菌薬が処方されていました。
血液検査ではカルニチンという物質が著明に低下していました。

診断:カルニチン欠乏性のけいれん重積

検査結果がでて診断できたのは一週間後でした。
最終的には後遺症を残さずに改善しましたが、意識障害も長く続き、原因もなかなか分からず、退院までに1か月ほどかかりました。家族も医療者も大変でした。

この患者さんは結局ウイルス性の上気道炎(風邪)だったので、結果的には抗生剤は必要ない病態でした。処方歴を見ると、その前に頻回に投与されている抗生剤も、必要ないものも多かったのではないかと予測されました。

「ピボキシル基」がつく抗生剤に注意!

抗生剤のうち、物質名に「ピボキシル」とつくものは、小児などに頻用すると低カルニチン血症となり、低血糖になったり、脳症を引き起こすことが指摘されています。「ピボキシル」基がつくお薬でよく使われるのが、以下です。

    • セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物フロモックス
    • セフジトレン ピボキシルメイアクト
    • セフテラム ピボキシルトミロン、ソマトロン等)
    • テビペネム ピボキシルオラペネム)

どれも、一般的によく使われるお薬たちです。

もともと、カルニチンが欠乏しやすい子どもが、これらのお薬を飲むと、お薬が分解される過程でカルニチンも一緒に排泄されてしまい、欠乏症の症状が現れます。

このように、抗生剤の副作用として、重篤なものがあるので注意です。

特に子どものこととなると、心配すぎて、お薬をもらったら安心する気持ちはよく分かりますが、無効どころか、害になることもあると知っておいてください。病態によっては、抗生剤が必要な場合もありますが、本当に必要なのかどうか、(特に毎回抗生剤を処方する医師には)一言聞いてみてもいいのではと思います。



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